第5話:3つの質問と払う代償
操は椅子に掛けながら必死に考えを巡らせていた。
状況が状況であるからこそ、
この質問に意味を見出したい。
「そう……ですね、1つ目からいいですか?」
操が恐る恐る尋ねると、衛は頷く。
「おう、好きにしなァ。」
「では……、僕を誘拐した目的。
ボスのいつも通りというのが、
何か教えていただけますか?」
なるべく下手に出る。
固有魔法次第で一瞬で消される可能性もあるのだ。
「ははァ、
そうか空原クンは会話が聞こえてたッつーわけだな?」
「いいぜェ、1つ目の質問。答えてやらァ。」
「メインはスカウトだ。」
「は?」
つい、素が出てしまう操。
(え? スカウト? こんな強引に? リクルート?)
思考が追いつかない。
「オレサマ達が探す人材は『固有を持っているか』
そして『戦える固有』ッつーのが重要視されてる。」
「普通の魔法なら誰だって撃てる。
けどよォ、元素魔法だけで勝てない相手だっているぜ?」
「魔力の素養。そんなモン鍛錬で補える。
でもよォ、固有や魔力の蓄魔量は才能だ。」
「ここまで分かるな?」
操はとりあえず頷く。少し話が見えてきた。
要するに……。
「空原クンのその糸の能力が何処まで出来るか分かったら、
ウチに入ってもらいたいっつー話だわな。」
「乱暴すぎる!」
操の反応に衛はガハハと豪快に笑う。
そんなことであんな威圧された上、
穴に落とされていたのか……。
笑い終えた後、衛は話を続ける。
「固有ってのは大体の人間持ってるモンだが……、
発芽していない人間の方が今は多い。」
「魔法が普及されて約5年、
年寄り連中は魔法撃つことすら叶わねェ。」
「であれば今、権力を示せるのは、
技術やお頭に秀でたモノじゃねェ。
魔法を制するモノだ。」
「それがVSCの理念って訳だ、分かったか?」
「は……はい。」
(凄い端的で分かりやすかった……。)
「で、サブだが。」
「まだあるんですか?」
「あァ、スカウトとは別に黒の4号の秘密保持契約だ。」
ブラック・Ⅳという単語に聞き覚えはないが……。
直感的に操は察した。
(……あのヴィスターは人為的に生み出されたモノなのか……!?
そんなのデスターがしている事じゃ……!)
身体が強張っていく。
操は知ってはいけないものを知ってしまった。
VSCのしている事はデスターと同じであれば……。
「さて、状況は飲み込めたかァ?」
「……。」
「無言は肯定だなァ、あと2つだ。」
操の在り方にヒビが入り始める。
――――――――――――――――――――
空原操の考え方は昔から、
『事なかれ主義』だった。
ゲームが好き、アニメが好き、俗に言うインドア。
それは誰にも迷惑をかけないし、
他の人も自分に迷惑をかけない。
自分の人生に覚悟も無いし、努力も目一杯はしない。
そんな、宙ぶらりんな男だった。
「はぁ……なんかつまんないな~……。」
テレビの前で吐いたその言葉は、
自分の人生の転機を求めていたわけではない。
バタフライエフェクトのように、
少しだけ何かが動いて、その先を見ていたい。
そんな傍観者のような考え方。
それで良かった、それが良かった。
何度もそう思ってしまう。
こんなことに巻き込まれるくらいなら。
こんなことになるくらいなら。
『最初から――――――――――。』
――――――――――――――――――――
まるで脳がリセットされたような感覚が走る。
操はすぐに衛を見て、質問を投げかけた。
「2つ目、
固有魔法についてもっと深堀りして聞かせて欲しい。」
さっきまでの操と違い、
目付きが鋭くなったように衛は感じる。
その目から威圧感があるような、そんな感覚。
ニッと笑い、衛は話を続ける。
「おう、じゃァ話してやるぜ。」
「固有魔法は一応誰でも使える。
ただ、開花してない人間の方が多い。」
「まァ言っちまえば、10%くらいの人間だろうな。
空原クンみてェに気付いてないっつーのもあるが……。」
(なるほど、自分は珍しい方なのか。)
日常から糸を使う訓練……というよりは、
この糸がどうやったら活用できるかは色々と試していた。
誘導棒が固くなるのも試していたが、
まぁ正直言えば敵を叩く棒としてしか使えていない。
山本社長がこの事を知らないわけがないのに、
なぜ伏せていたかも引っ掛かる……が、
今は気にしないでおこう。
そして次の衛の言葉に操は驚きが隠せなかった。
「そして固有には代償が伴う、魔力の消費以外にな。」
「代償……?」
綺麗な桜の前で物騒な響きの言葉。
操はその言葉の続きを待つ。
「あァ、ゲーム風に言うと使用時に、
デバフみてェのが付いたりするんだよな。」
衛は操のゲームが好きそうという安直な理由で、
そういう例えをしたのだろう。そうだが。
事実、操はゲーム経験豊富でデバフが毒や麻痺とか、
そういう感じの物と認識している。
間違っていなければいいが……。
「まァ……あんま言いたかねェがサービスだ。
オレサマの場合は何かを仕舞っている間
眼が見えねェ。」
(え……?自分から弱点を晒しているのか……?)
「盲目になっているのか?」
「あァ、外だとな。
こっちは精神そのもので会話してるからばっちり見えてるがな。」
「黒の4号と空原クンの二人を仕舞ってる最中だから、
この両目は使用中ってワケ。」
サングラスをクイッと上げて、
エメラルドグリーンの眼でこちらを見つめてくる。
「それが代償だと?」
「あァ。
空原クンも恐らく何かしらの代償を払っているはずだぜ。
まァ本人に自覚がないならどうしようもねェがな。」
(俺の……代償……。)
「さて、最後に3つ目の質問を受け付けてやろォか……。」
衛がそう足を組みなおして座りなおそうとした時だった。
ゴオォンと空が揺れ、
青白い光と共に桜並木が消えて黒い世界に戻る。
暖かかった風は何処へ行ったのか、
音も響かない空間に二人は残される。
「あァ!?カイトてめェ!何やって……、チッ。
黒の4号を出すわけにはいかねェ。」
「3つ目は今度答えてやる、空原ァ!ここから出やがれ!」
操は光に包まれる。




