第3話:固有魔法とVSC
操は逃げていた。
それもそうだ、助けてもらった恩人ではある……が、
詳細不明のボスが「いつも通り」なんて、
碌な事でない事は想像にたやすい。
マモルは走りながら、操に狙いを付け始めて手を伸ばす。
「なァに逃げてんだよ!『個喰らう』……!」
「待ってください。
マモルさんの固有は、
移動している相手だと欠損させる可能性があります。
しかも黒の4号の捕獲後です。
できれば魔力の酷使はしたくない。」
そう言われ立ち止まり、苛立ちを隠せないマモル。
「そういうなら策はあるんだろうなァ……?えェ?」
「要は動けなくすれば、
マモルさんの固有での確実な運搬も可能でしょう。
でしたら私の力が適任です。」
意外にもマモルはここで言い返さず、
カイトの言葉を素直に聞きそのまま地べたに腰を付ける。
「んじゃァ休ませて貰うとするわ。
カイトォ……タダでさえサボり未遂だ。逃がすなよ。」
「メモ帳にネタを増やすのを、
サボリとされるのは癪ですが……。
まぁ見ていてください。」
カイトはボスとの連絡をしていた時と同じ動作を取る。
空中に手をかざし、
スマートフォンのようなフリックを行っている。
「位置関係がここで道がこう……。
あぁ多分此処の反応ですかね?
まぁ間違ってたらドンマイってことで。
『道開く大衆』。」
地響きが鳴り始めた。
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「ハァッ……ハァッ……!」
操は走り続けていた。
途中から追いかけていた二人組に疑問を抱きつつも、
小道や脇道を駆け抜けていた……はずだった。
踏み込んだ足が空振り、重力が突如として襲い掛かる。
ちょうど操のいた足元の真下が消えていた。
(マジ……!?やばくねぇ!?)
「一難さってまた一難……とは言うけど……よっ!」
先ほども使っていた魔力の糸を電柱に巻き付ける。
「これじゃもう四難五難……ダンゴ三兄弟越えだな……。」
ブラブラと片手だけ上に上げた状態で、
宙に浮いたままぼやく。
相手の姿も見えない状態でも、
遠くにいる認識はある。
少し軽口を叩く余裕が出てきた。
(けど……この状態じゃもう上がれねぇな……。
なんとならねぇかな……?)
余裕が出来たのは気持ちだけ。
あくまで背中に負った傷や、
使用した魔力分が帰ってきているわけではない。
(穴に下りれば土魔法を使って、登れるかもしれないが
……眩暈が少しキツいな……。)
そもそも操はこんなに魔法を多用したのは久しぶりで、
かなりの眩暈を感じている。
それのせいもあり、
何分ぶら下がっているのかもわかっていない。
間もなくあの二人も来るだろう。
「考える余裕がねぇ……手詰まり感も否めねぇ……。」
(まぁ、でも退屈な日常は一瞬だけ崩れたし、
殺されてもしゃぁない事……か。)
諦めの境地に達する操。
それに拍車を掛けるようにコツコツと足音が聞こえてくる。
「おい、この辺で合ってんだろォな。」
「えぇ、間違いなく。」
ついに二人組の声が聞こえる。
「おい、コイツ……。なんかぶら下がってるぞ。
固有魔法持ちじゃねェか。」
「当たり、ですね。お名前は分かりませんがそこの方。
殺しはしないので一旦捕まって頂けませんか?」
「そういうこった。『個喰らう箱庭』」
ついに操は捕えられた。
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そこは不思議な空間だった。
真っ暗な中にポツンと椅子が有り、
先ほどの厳つい男のマモルが座っていたのだ。
「おゥ、起きたか。」
そういうとマモルはサングラスを上げ、
こちらを見つめてくる。
「まァ、取って食いやしねェよ。ちょっとお話させてもらうだけだ。」
「殺風景ってのもいけねェな。
おい、テメェ。どっか好きな景色とか風景、
場所とかあるかよ?」
先ほどまで追いかけていた時の威圧感は何処へやら、
打って変わって落ち着いている。
操はそんなマモルの態度に呑まれてつい口にしてしまう。
「えっと……桜が好き……かも……?」
「おう、若そうに見えて意外に渋いじゃねェか。良いぜ。」
マモルが指を鳴らす。
バリバリと青白い電気が暗い奥から走ってきて
操の頭上と足元を駆け抜けていく。
あっという間に、桜並木ある河川敷に風景を変えた。
少し暖かい風が吹いている。
(なんだ……今の……!?)
「あァ、動揺させちまったか。悪ィな。」
「まァなんだ。先に自己紹介しておこうか。
VisterSlayCompany……VSCの幹部、
やらせてもらってる西寺衛だ。」
「そして、この固有魔法の名前は、
個喰らう箱庭って言ってなァ。」
「雑に言えば今ここは俺の眼の中、
そして会話しているオレサマは精神体みてェなもんだ。」
操は困惑するしかなかった。




