幕間4:丸ノ内神楽とへーぼんなおやすみ
神楽は眠っていた。
青く光るパソコンの前で机に突っ伏したまま動かない。
彼女はフロンテラの中でも後方支援の担当。
戦闘魔法・技術はからっきしであり、
固有魔法の代償も面倒なもの。
その為彼女は暇な時以外、
この部屋から自発的に出ることはない。
部屋にブザーが鳴る。
ビーッビーッ。
2回。
これは車への乗車用ワープを開く指示だ。
特に疑問を持たず、ワープゲートを開く。
「『遠く彷徨う希望』」
マイクへ向けて一言だけ。
「いってらっしゃーい。」
それが彼女の仕事だ。
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つーわけで、
出番少なしワタクシめの一日をお送りしますよ~。
まず大前提として基本寝てるんだよね~。
なんでかって話だけど……。
まぁボクの固有魔法の代償はとても簡単で。
『動かないコト』と『カロリーの消費』なんだよね~。
繋げる場所や距離、大きさ、人数。
色んな要因が重なり合うと……。
莫大なカロリーと魔力を持ってかれちゃうのだ~。
なのでボクは基本寝ているわけなんだけど……。
「今日は……、誰も動かない日かな?」
予定表とにらめっこして、
予定外が無ければ大丈夫だってのも確認したし。
よしよし、珍しく早起きしちゃったし。
施設内をお散歩することを決行だぜ~。
という訳でコントロールルームから出るとしますか。
一応無線イヤホンを付けて行かないと。
緊急時に何かあると大変だから付けていくのだ。
今日は新人の操くんと陽くんが、
訓練室で訓練予定だったかな~。
林檎ちゃん達は別働で動いてる様子もなかったし、
依頼も何もない平和な時間なわけです。ウンウン。
少数精鋭じゃなかった頃は……。
全員ワープさせるだけで2日は寝込んだからね。
本当茜サマサマって感じ。
休憩室でも行こうかな、林檎ちゃんいると思うし。
お、いたいた。
「やっほ~。」
「あら、神楽ちゃんじゃない。早起きね。」
コーヒー片手に本を読むイケメンって感じだな~。
ちゃんと中身はお姉さんなんだけど。
「うん、寝溜めはある程度できたし~。
たまには歩かないと筋力0になっちまうぜっ。」
「そうよね~。
アタシもある程度筋肉鍛えないと……嫌なのよねぇ……。」
「確かに、細身をキープなら筋肉は敵!って奴ですなぁ。」
「そうなのよ!さすが神楽ちゃん、分かってくれるわぁ。
お礼にキャラメルちゃんを贈呈しちゃうわ。」
ありがたーくお口に含ませてもらいましょう。
「おっ、糖分サイコー。寝たままの脳に染みるぜ~。」
「たまには甘い物も食べないとね。」
「そうね~。それじゃボクは散歩の続きとしゃれこむぜい。
またね林檎ちゃん。」
こうして、
丸ノ内神楽は、黒鉄林檎と別れたのであった……ってね。
てくてく、てくてく。てとてと、てとてと。
施設の管理者が歩きながら感じるけど、
やっぱり施設広いなぁ……。
コントロールルームに帰りたい気持ち出てきてしまった。
今ならまだ引き返せる……ん?
あの特徴的な男子二人は……。
「おや、おやおや?」
「あっ、丸ノ内さんっス!」
「丸ノ内さん、おはようございます。」
おお、新進気鋭の期待のニュービー達ではないか。
これは頭痛が痛い構文な気がする。
「操君、陽君。オハヨウオハヨウ!調子は如何かね?ん?」
「まるで偉い人の喋り方っス!」
「まぁ少なくとも俺たちよりは偉いしね。
調子は~……、まぁまぁです。」
「そっか~。ヤマモトゥに随分と扱かれているようだねぇ。
今度訓練見にいくよ~。……起きてたら。」
「おす、待ってます!そうだ、丸ノ内さん!
荷物の件もありがとうございましたっス!」
「おー、気にしないで~。
どうせモノのついでって奴さっ。」
引っ越しの為のワープの事だろうな~。
別にあのくらいならしんどくなかったしね。
東京から大阪に行くとかは結構重たくなってくるけど。
「そういえば、丸ノ内さん。
あのワープの固有魔法の名前ってなんなんですか?」
「ほう、操君。気になるかね?」
「俺も気になるっス!」
「しかたないにゃぁ……。僕の固有魔法の名前は……。」
「名前は……?」
「『遠く彷徨う希望』だよん。」
「やっぱ、みんなちゃんと名前付けてるんですね……。」
「俺も名前付けて出力あがったっス!ふぁいやーっス!」
これはこの子達には言わないんだけど。
固有魔法って名前を付けているつもりになってるだけで、
どうも最初から決まっている気がするんだよね~。
まぁ、杞憂ってことししとこうかな。
「ここで炎出されると困るから、
早く訓練場に行って来たまえ。
ヤマモトゥによろりんって言っといて~。」
「はいっス!」
「不躾な質問に答えて頂きありがとうございます。」
「はーいよ。訓練がんばってね~。」
なんか~、こう見ると。
いいペアなのかもね?
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「はぁ……ワカイモンの熱量たるや……。
当てられちまったぜ……。」
ここは治療室。
実はお散歩のメインターゲットはここなのだ。
みらちゃこと御来ちゃんは、
今日も嫌そうな顔でこっちを見てるぜ。
「はいはい、神楽。
ベッドに寝てないでちゃんとカロリー剤持って行って。」
このカロリー剤という某がとても重要な訳ですわ。
「そう言わないでさぁ~。あ、みらちゃさんきゅ~。」
持ってくの忘れると大変だから、
ちゃんと手には持って置くのだ。
……二往復は地獄なのだ……。
「みらちゃ的に新人はどうだい?」
おもむろに質問をぶつけてみる。
「ん~……。そうねぇ……。」
およ、珍しい。ペンを置いて思考してる。
彼女なりにあの二人に思うところがあったのかな?
「危うい……わね。」
「そっか~。みらちゃが言うならそうなんだろうね~。」
ってことは近々なんかありそうだなぁ……。
こういう予感ばっか当たるんだから面白くないってもの。
「そろそろ戻るね~。また来るね~、みらちゃ。」
「来なくていいわよ。」
イケズ。
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こうして、丸ノ内神楽のお休みは消化され、
彼女はコントロールルームに戻る。
神楽はまた眠りにつくのであった。




