表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

第17話:隊長となる達也




 (みさお)達は小屋の外で御来(みらい)我妻(あがつま)を待っていた。




 外も夕暮れから夜へと色を変え、辺りは暗くなっていた。

 黒鉄(くろがね)が炎魔法で火を点け、

 焚火をしながら全員岩で出来た椅子に座りながら待つ。


 森の静けさや、その場の空気の重さ、沈黙が心に刺さる。


我妻(あがつま)君……。)


 大丈夫とは言われたものの、

 心配なものは心配で操は貧乏揺すりをしながら時を待つ。


 幸い、猿との戦闘以降モンスターの襲撃も無く、

 その点は安心できていたのだが……。


「おい。」


 夕凪達也(ゆうなぎたつや)が沈黙を破る。


「黙ってても仕方ねぇ。何があったか話してみろ。」


 いつも通りに苛立ちを隠せないようだったが、

 声色は少しだけ優しく感じる。


 もしかしたら不器用な人なのかもしれない。


「それが……、」


 操は口を開き、今回の話をした。


 セントスピリットとの戦闘。


 自分が先走ったこと、あがつまから目を離したことを。


「……そうか。」


 達也は神妙な面持ちで話を聞いていた。

「まぁ……なんだ。てめぇが悪い事は悪いが、

 あんま引きずんじゃねぇ。」

 彼は彼なりの優しさで話しかけてくる。

 てっきり怒られると、なんなら怒られたかった。

 今はその優しさが操にとって少し痛く。


「俺も似たような事が1回あってな……。」

 達也はそう続けた。


「そうなんですか?」

 意外だ。

 茜さんの弟さんだし、少数精鋭と聞いていたから。

 皆、あまりミスは無いものと思っていたが。


「……あれは達也ちゃんのせいじゃないわ。」

 黒鉄がフォローを入れる。


「黒鉄、俺なら平気だ。とりあえず続けるぞ。

 同じセントスピリットとの闘いだった。

 まぁ時間つぶし程度に聞いてくれ。」



 そういうと当時の状況を彼は話してくれた。

 (しずく)は無言のままだ。

 のちに彼女もこの話を聞いたのは初めてらしい。

 


 ――――――――――――――――――――



 これは、フロンテラが少数精鋭という体制を取る前。

 セントスピリットが、まだ無名で未知であった頃の話。



「おう、てめぇら!今日は2合目の実地調査が目標だ!」


 達也が元気よく声を張り上げる。


 今日は達也の初の隊長。20人近くで部隊を編成し、

 フロンテラにとって日常の世界樹への探索を試みる。


「今日は新人も居る。ツーマンセルで動けよ!」

『はい!』

 そう達也が言うと、大きな声で返事が返ってくる。


 20人全員がベテランという訳ではなく、

 ある程度新人を混ぜながら戦闘経験がある者を編成した。

 これでなら、問題なく進めると達也はそう確信していた。


 1合目の樹海、彼らはゆっくりと進軍を始める。


 他愛のない会話や笑い声、どこか緊張感に欠けている。


 それは当たり前のことで、現代日本で生まれ育った人間。

 老人でなければ戦争を知らず、

 自分たちは狩る側であると思い込んでいる。


 先頭は隊長の達也、

 殿には達也と近い実力の副隊長という人物で進んでいく。


 突如として聞こえるカチカチと鳴る音。

「ギィイイ!」

 その音の後に人間のもので無い声。

 

 最初に反応したのは、副隊長だった。


接敵(エンゲージ)!」


 その声が聞こえてから一瞬で達也は振り向き、

 戦闘態勢を取る。


 普段、彼の持っている獲物は槍。

 その槍を構えたまま対象を見つめる。


 今はセントスピリットという名前が付いているが、

 昔は名前の無い巨大なムカデ。

「なんだありゃあ……総員!警戒を怠るなよ!」


「一番槍は貰いだぜ!」

 達也の警告も空しく、集められた新人が魔法を放つ。

 お調子者で、さっきまで大笑いしていた新人の一人だ。


 巨大なムカデは彼の氷魔法で風穴をあけられている。


「てめぇ!勝手に攻撃してんじゃ……。」

 

「ギイイイッ!ギィイイ……。」


 気持ちの悪い声と共に倒れるモンスター。


「楽勝!今日は2合目どころか、

 世界樹の頂上まで行けちゃうかもな~!」


 笑い声が響く。

 達也も少しだけ気が緩んでしまう。


「ったく、後で命令違反の始末書は……。」


 次の瞬間。


「ガアアアアッ!ウグッ……!」


 副隊長が突如苦しみ始めた。


 全員が副隊長に視線を向ける。

 足が先ほどの虫に食いちぎられようとしている。


「まずい!どけ!俺が……。」


 達也は先頭に居て後手に回ってしまう。

 副隊長や皆を巻き込む事を考慮して魔法を放てない。


 先ほどの新人も同じことを思ったのか、

 魔法を放つことが出来ないようだ。


(槍で仕留めるしかない!)


 脱兎のごとく駆けだし副隊長の足に向けて槍を薙ぎ払う。


 噛みついている頭と胴を寸断して、

 事なきを得た……かと思われた。


(こいつ……噛みつきを止めねぇ!)


 さらに頭に攻撃を入れようとした時、

 視界内の違和感に気付く。


(さっきまであったアイツの死体がねぇ……。

 いや、今は!)


 頭に向けて槍を突く、

 何かが砕ける感触。頭は動かなくなった。

(こいつはまさか……。)


「おい、平気か?」


 副隊長に声をかける達也。

 しかし、副隊長は聞こえていないのか悲鳴を上げ続ける。


「痛い!いだいぃいいいぃい!」

「落ち着け!もう噛まれた箇所は……。」


 噛まれた箇所から肌が紫色になっていた。


(毒!?)


 達也は思考する、毒に対して何が出来るかを。


「悪い……!」


 そういうと毒が回っていない脚から下を切り、

 なんとか全体に毒が回るのを防ぐ。


「痛だ!いだいいだい!痛いです!隊長!痛い!」


 毒の痛みは止んだが足の痛みは消えておらず、

 なんとか隊長を認識して、痛みを訴える。


「大丈夫だ、

 すぐ何とかしてやるからな。誰か医療キッ……。」

 

 後ろを振り向くと、既に他の隊員もやられていた。

 まさに地獄絵図だった。


 何人かの隊員はムカデに身体を貫かれ、

 もう既に5人以上横に倒れている。

 

 未知に対して油断。

 達也が油断した訳ではないが、隊長の責任。


(こいつ、やっぱり……分裂してんのか!

 さっきはコアを潰したから殺せたって訳か……。)


 隊員達が既にパニックに陥り、

 ムカデの数は膨大に増えていく。


「おい!逃げるぞ!声の聞こえたやつ!

 動けるやつはこっちに引いてこい!」

 

 パニックからなんとか立ち直った隊員たちは、

 急いで達也の方へ走ってくる。


「タズゲデ……イダイヨ……タイチョウウウ……。」


 一番槍と息巻いて突進していた、

 お調子者の隊員は苦しそうに達也へ手を伸ばす。

 既に全身が紫になり、腹を貫かれている。

 あと1分も持たずに喋れない身体になるだろう。


(悪い……な。)


 憂いを帯びた目でその隊員を見つめて、

 動ける隊員が全員逃げたのを確認。 

 

 達也は、他の隊員達の呪うような視線の中、

 副隊長を抱きかかえたままその場を後にした。


 

 達也の隊は、半壊したのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ