第12話:夕凪の憂いと一ノ瀬の好奇心
操達の訓練の裏で……。
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「茜ちゃん、本当に大丈夫かお?」
「な~に~が~?」
茜は横になりながらぐったりしていた。
「あの二人を富士山に行かせるの、オイラは反対だお。」
藤林が静かに話す。
「……。」
茜は口を開かない。
「いい、別に。」
長い沈黙の後、ぶっきらぼうに茜は口を開いた。
「あそこで……死ぬような子達じゃないよ。」
茜は弱々しい声で言う。
普段の彼女から想像すらできない。
「それもあるお、けど……。」
「VSCの事?」
「そうだお、多分動くお。」
「……。」
やはり、茜の口は重い。
「彼を呼ぶかお?」
「あぁ、うん。ちょっとそうしてもらえると助かるかも。」
それから数分後。
「……で、何の用かな。」
藤林は居なくなり、
そこには自己紹介の時に居なかった長身の男性が居た。
「これからどうなるの?」
茜がそう言うと、その男は眼を閉じる。
「……、とりあえずはまだだね。
呼び戻さなきゃいけなくなる事は起きるだろうけど。」
「そう、君は後どれくらい?」
「それ、言わなきゃダメかな?」
「当然でしょ。」
「もう年内、今が春だから。恐らく冬には。」
「あぁ……そう。」
夕凪茜がため息を付く。
「茜には迷惑を掛けるね。」
「本当迷惑だよ。貧乏くじも貧乏くじ。
あーやってらんない。」
普段の茜からは想像も付かない程にテンションが低い。
「彼はキーマンだ。」
「でしょうね。」
沈黙が続く。
「彼の動向には気を付けて、
もし魔王が生まれたら取り返しは付かない。」
「……。」
いつまでも淀む空気。
「そろそろ時間だ、僕は行く。
少しでも温存したいからね。」
「……分かった。」
茜の眼に涙が浮かぶ。
そのまま彼の気配が消える。
「馬鹿……。」
一人残された所長室で、
茜は声を殺して泣いていた。
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訓練の後、開発室に操は来ていた。
我妻は夕凪達也と気が合うらしく、
少し外に出ているそうだ。
操は一ノ瀬と話をしていた。
「この感じ、
君の元素傾倒が土なのはわかるんだけど……。」
一ノ瀬は少し悩んでいるようだ。
「何か問題が?」
「いや、
誘導棒の硬くなる理由がどうも引っかかるんだよね。」
「というと?」
操は首をかしげる。
「操くんの元々が能力そもそも糸なのにどうして誘導棒だけが硬くなるのかがそもそも謎で、糸の能力と結びつかないというか固有魔法は一人1つであるべきだし、となるとそもそも前提として固有が一人1つであることが間違っているということになるが2つ発現した実例というものが存在していないけれど、今目の前にいるということは糸の能力とは別に発現している能力と考えるべきなのか糸の能力の素養により1つの能力となっていると考えるべきか、手を離れても誘導棒自体に岩の元素が流れていて新しい魔法の使い方という線も考えられるから……。」
研究者らしい途轍もない早口が展開される。
「ごめん、落ち着いて。何言ってるかわからない。」
「あぁ!ごめんよ!つい熱が入ってしまった。」
一ノ瀬はオーバーなリアクションで手を振る。
「まぁ、とりあえず君の固有は特殊だから。
あまり情報を出さない方がいいかもねって事さ。」
「ただ誘導棒を硬くするだけがか?」
「そう、やっぱりそれが引っかかるんだよね……。
まぁ今考えても仕方ない。」
「そう……か。」
自分ではあまりしっくりと来ていないが、
皆が言うならそうなんだろうなと操は思う。
「とりあえずそれは置いておいて、
今回来たのには何か理由があるじゃない?操くん。」
そういうと、一ノ瀬はレンチを空中に投げて掴む。
ドヤ顔と共に物でごちゃごちゃのテーブルに肘をつく。
「あぁ、頼みたいことがあってな……。」
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時は過ぎ、富士山突入予定日の4月10日になった。
「みんな、準備はいいかしら?」
黒鉄がそういうと三人は同時に頷く。
まずは1合目、皆が気合をいれた。
その瞬間。
「あはは!こんにちは!」
紫色の道化師の服を来た小さな女の子が来る。
「小南……!」
狼狽した黒鉄が呟く。
「今日は挨拶だけ!皆々様!
来るのが遅くて待ちくたびれちゃったよ!」
小南がそう言うと、カプセル状のものをばら撒く。
「大盤振る舞いだよ~!あはは!またねっ!」
小南はその発言と共に紫電となり消える。
操達が面食らう暇もなく、
カプセルから黒い煙が立ち上る。
「黒鉄さん今のは!?」
慌てて戦闘態勢を取りながら、操は質問する。
「VSCの幹部の小南よ!
何をしてくるかは分からないけど……!」
黒い煙の中が、魚の形に変わっていく。
「モンスターより先に……ヴィスターっすか。」
「強さは未知数よ、気を引き締めて。」
我妻の言葉に、雫が反応する。
操達の訓練の成果の初戦はヴィスターになった。




