第11話:みんなと訓練
操は待機していた。
件の自己紹介から1週間とちょっと。
色々あってマンションではなく、
フロンテラの施設内で暮らすこととなった。
我妻と操はお互いに向き合いながら、
休憩室で座りながらスマホをいじっている。
「操さん、今回の話どう思うっスか?」
スマホを見ながら我妻が質問する。
「どうもも何も……。
ブリーフィングで茜さんが話していた通りだろ。」
操も同じく顔を見ずに話す。
「いや、そうなんスけど~。
正直自信ないっつーかー……。」
ちょっと心配そうな顔をする我妻。
流石に操は我妻の顔をしっかりと見る。
「今回は黒鉄さんも雫さんも付いてきてくれるし、
とりあえずは大丈夫じゃないか?」
「訓練もキツいっスし……。」
「我妻君……本当社長の訓練嫌いだよな……。」
「まだまだやるんスよね……。固有使いたくないっス~!」
時を数日前に遡ろう。
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「くーちゃん、あがつまっち。
私物の運搬はある程度終わったかい?」
茜さんは椅子に座って紅茶を飲みながら、
話しかけてくる。
言動によらず、上品な飲み方をしている印象を受けた。
「はい、お陰様である程度は。」
「右に同じくっス!」
フロンテラの施設内に荷物をある程度運ぶこととなり、
あまり持ち込みができないかと思いきや……。
フロンテラが使用している車が、
丸ノ内の能力でワープ繋がっているのだ。
その為施設は千葉某所にあったのにも関わらず、
埼玉住みの自分でも自室の物はすぐに運びだせた。
「しばらくお家には戻れないと思っててね。
悪いけど、今回は新人研修も兼ねてるから。」
茜が紅茶を皿の上に置く。
「ってことで、入ってきて~。」
金属の壁に似合わない木製の扉が開く。
「あ、黒鉄さん、冷泉さん。」
「雫でいい。」
「さっきぶりね、操ちゃん。陽ちゃん。」
「ウス!」
車の運転は基本的に黒鉄がしてくれて居た。
その為、話をして操達は親睦を深めさせてもらっていた。
黒鉄も多様化した社会の中で生きている一人で、
俗に言うオネエであった。
「今回の新人研修の担当は、
リンゴちゃんに任せるから宜しくね。」
茜がそう言うと、黒鉄は頷く。
「分かったわ、今回はどっちで研修なのかしら。」
「富士山の方、お願いできる?
フロンテラのメイン業務はそもそもそっちだし。」
(富士山……?)
操は疑問が浮かぶ。
「分かったわ、今回私はサポートに徹するから。
雫ちゃんお願いね。」
「はい、分かりました。」
雫もすぐに頷いた。
操にとって最近は分からない事だらけ。
未知が多い分、好奇心も増える。
「フロンテラのメイン業務というのは……?」
質問を投げかける操。
「富士山、及び世界樹の調査だよ。」
「!」
操も我妻も驚きを隠せなかった。
それもそのはず、富士山への立ち入りは、
5年前のあの日以降厳禁とされている。
どんな影響があるか分からない、何がいるか分からない。
自衛隊が入って戻ってこなかった等の悪い噂も絶えない。
「富士山は不可侵では……。」
「通常であれば……ね。」
黒鉄が意味深に呟く。
「うちは国から許可を貰って調査を貰っているんだよ。」
茜さんは普段と違う真面目な雰囲気で話す。
(この組織は何処まで影響力を持っているんだ……?)
国からの依頼さえ舞い込んでくるフロンテラという組織。
操は底がどんどん見えなくなっていく。
それとは対照的に。
「富士山!世界樹!夢があるっスね!
ドラマがあるっス!めいくどらーまっス!」
我妻は浮かれていた。
「悩み込むのもワクワクするのも後ね。
世界樹に向かう事は、難易度も相当跳ね上がる。」
「はい」「はいっス!」
操と我妻の二人返事する。
「だから死なないで貰うために訓練するんだけど……。
訓練自体は山本に受けているから、
そのまま山本にお願いしようと思う。」
「えっ。」
我妻が露骨に嫌そうな顔をした。
「一応君たちは表向き会社の所属のままにしてあるからね。
もしもの時の為ってやつ。」
「だからやまもっちゃんに訓練は任せる。
雫も参加してね。」
「分かりました。」
先ほどから静かに聞いていた雫は即座に首を縦に振る。
「これでブリーフィングは終わり、
1合目抜けられるくらいに成長してもらわない困るから、
暫くは訓練漬けだよ。」
「はい、了解です。」「……オス……。」
操は山本社長の訓練に問題は無いと感じていたが、
我妻はどうしても嫌なようだ。
――――――――――――――――――――
待機時間が終わり、再度訓練へと戻る。
山本は警備会社の仕事の合間を縫って訓練してくれる。
事務所には秘書を残して、事情も伝えているらしい。
「はぁッ!」
操が糸を使って誘導棒を巧みに操り、
右へ左へと薙ぎ払う。
ヨーヨーのような動きと誘導棒の回転で雫を狙う。
「……。」
雫の周りが動かなくなる。
そのまま雫は一歩後ろへと下がって回避を試みる……が。
「やっぱ……あの固有魔法強すぎるッ!」
操が狼狽して、何とか棒を手に戻そうとしている中、
山本は落ち着いていた。
「駄目だよぉ~、雫ちゃん。
その固有は不動に対しての耐性は無いから過信しちゃ。」
今はツーマンセルで模擬戦闘をしていた。
山本社長と操。
我妻と雫のペアで戦っている。
「っ……!」
雫の後ろにある小さなトゲ上の氷、
靴で踏んでもある程度の怪我は覚悟しないといけない。
それに動揺したのか、雫はバランスを崩す。
固有が解除される。誘導棒はギリギリで回避したものの。
氷の針に倒れ込むことは回避できない。
「危ないっス!」
もの凄いスピードで我妻が炎の翼を羽ばたかせ、
雫の手を掴みバランスを取りなおさせる。
間一髪で、針を回避し状況を立て直す。
横に我妻が、着地する。
「大丈夫っスか!?雫さん!」
「えぇ……。」
「我妻くん、余所見しすぎッ!」
操がそう言うとクモの巣状の糸が二人に降り注ぐ。
雫は時の速度を遅くし、回避しようとした瞬間に気付く。
(我妻くんの距離が遠い、我妻くんの方を止められない!)
「ウォタリング……!」
雫の詠唱と同時に。
「ロック・ジェイル!」
「フロスト・バインド……これでチェックかな~?」
我妻の足に氷が絡みつき、飛べなくなる。
同時に雫の周りに岩が出てきて水魔法の詠唱が止まる。
我妻を守る魔法だったのだろうか。
対象が見えないのでイメージができないので、
詠唱破棄となって水が散る。
それを見ていた夕凪達也が声をかける。
「そこまで、全員魔法を解除しな。」
氷は霧散し、岩も土となる。糸も魔力の粒子となり、
炎の翼は火の子と共に散っていく。
「さすがっスね……操さん、社長……。」
「俺は社長と事前に打ち合わせて通りに動いただけだよ。」
お互いに怪我が無いか確認する。
「雫ちゃんは、固有に頼り過ぎだね。
足元を救われちゃうから、気を付けたほうがいいよ~。」
「はい……山本さん、ありがとうございます……。」
雫は悔しそうにしている。
操達の強化訓練は続く。




