第8話:『不死鳥』と藤林
我妻は、訓練場と呼ばれる場所に立っていた。
なぜ、此処に立つ事となったか。
それは1時間前に遡る。
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「押忍!我妻陽っス!」
山本が言っていた面接を我妻は受ける事となっていた。
我妻の目の前に座っているのは、二人。
夕凪茜と、もう一人。
小太りした眼鏡をかけた男。
「じゃあ始めるよ、この部屋椅子無いから悪いけど、
そのまま立ったままで居てもらってもいいかな?」
「押忍!」
茜がそう言うと我妻の眼をみる。
「山本宗次郎の推薦、
近くに居たことと『固有魔法持ちだった』という理由で、
フロンテラの社内に来ていた訳だけど……。」
茜が続けて話していると、眼鏡の男性が口を開く。
「固有魔法について話して貰ってもいいかお……?」
少し独特な喋り方の男性。
眼を引くのは腰に帯刀している事。
現代日本ではかなり珍しいが、
魔法が普及してからトリニスタを相手にするという事で、
武器を持つことに対してのハードルは下がった。
トリニスタを相手している会社なら特にそうだろう。
「俺の固有魔法は、『羽搏ける不死鳥』っス!」
「……へえ、代償が重くなければ、
どんなものか見せてもらえるかお?」
男性は少し興味を持ったようだ。
そのまま我妻は固有魔法の構えを取り、
「問題ないっス。はああああっ!」
狭い部屋内に炎が舞う。
それを見ていた男性が笑みを零す。
「面白いお、いいお。
オイラが相手するお。いいかお?茜氏。」
眼鏡の男性が腰を上げる。
「……珍しいじゃん。いいよ、
それじゃ面接は一旦止めて、実技からにしようか。」
「訓練場まで行くお、固有は一旦仕舞ってくれお。」
固有魔法を解除して我妻は当然の疑問をぶつける。
「あの……茜さんは分かるんスけど……。
お兄さんの名前はなんスか……?」
「あれ、言ってなかったかお。
オイラの名前は藤林 幻だお。」
「藤林さんっスね!宜しくお願いしますっス!」
我妻は口調を気にしないタイプであった。
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時は戻り、藤林と我妻は相対している場面へ。
「固有の使い方と戦い方を見るお。
山本氏に少し仕込まれているとはいえ、
オイラ達の会社はそんなに甘くないお。」
「押忍!行ってもいい時に教えてくださいっス!」
藤林が構える、刀は抜かないようだ。
「いつでもだお。」
「はあああッ!羽搏ける不死鳥!」
我妻の背中に炎の翼が生える。
どうやら名前の付け方も真っすぐに付けたらしい。
そのまま炎の粉を舞わせながら空中へと飛び上がる。
「悪いっスけど、ちょっと焦げてもらうっスよ。」
対空状態で、両手を前に藤林へと向けて。
「プロミネンス・ボール!」
通常の魔法技と違い、
文字通りケタ違いの火力が出ている。
「これがちょっと焦げる程度かお……、
面白い事を言うお。」
放たれた巨大な炎の弾は、
藤林を包んでそのまま鉄の床に着弾……だが。
その焼け跡には何も残っていなかった。
「げっ……やりすぎたっスか!?」
我妻は冷や汗を掻く。
「大丈夫だお。」
何処からか声が聞こえる。
「この程度で死ぬなら、ウチではやっていけないお。」
焼け焦げた後とは全く別の場所に、藤林は立っていた。
(目視で移動を確認出来なかったっス。いつの間に……?)
少し焦り始める我妻。
(もしも当たらないとかが続くなら代償がキツいっス……。
早めにケリをつけるっス!)
「はあああああッ!」
思い切り力を溜める。
魔法の速度で当てる事ができないなら、
翼を羽ばたかせてそのまま突進する。
まっすぐな性格の我妻らしい戦い方で。
「なるほど、魔法でダメなら接近戦かお。
悪くない臨機応変さだお。」
「そこらへんは、山本氏に仕込まれるかお?」
「そうっスよ!ハッ!フレイム・エンチャントッ!」
拳に炎を纏わせる。
「確かに、それなら僕も素手で受けるのは危ないお。
考えたお~。」
藤林に拳が振り抜かれる。
それをギリギリで藤林が躱す。
振り抜く、躱す。
振り抜く、躱す。
翼の速度に合わせながら後ろに下がりつつ、
幾度となく、躱し続ける藤林。
「ゼェ……ゼェ……。」
「ちょっと固有使いすぎたお?平気かお?」
我妻の渾身の攻撃を軽々と避けながら、
藤林は心配する余裕まであるようだ。
「まだまだっス!はあああァァァ!」
翼の炎の出力が極端に上がる。
熱気が訓練場全体を包み始める。
「サン・オブ・……!」
「……そこまでだお。」
トンっと突然我妻の後ろを取った藤林が首の後ろを叩く。
「あうっ……。」
そのまま羽搏ける不死鳥が解除され、
我妻は酷く苦しそうな呼吸をしている。
「ゲホッ……ゲホゲホッ……。すみませんっス……。」
「……ちょっとやりすぎだお。
でも実技は合格って事にしてあげるお。
落ち着いたら面接の続き、頑張るんだお。」
藤林がそう言うと、笑顔で我妻は意識を失った。
一部始終を見ていた茜が歩いてくる。
「ちょっと、無理させすぎじゃない?」
明らかに不服そうな顔をしている茜。
「仕方ないお、
この時期に来る子はちゃんと測るように言われてるお。」
「彼から?」
「そうだお。」
「なるほどね……。
結局、二人ともウチで引き取ることになりそうじゃん。」
「あー!やまもっちゃんの描いた図の通りなの癪だな~!」
自分の髪をわしわしして不服さを表に出す茜。
「諦めるお、
山本氏は茜氏と違ってちゃんと策を弄するタイプだお。」
呆れながら物を言う藤林。
「はいはい、じゃあこの子を御来ちゃんの所に運んで、
とりあえずウチらも休憩しよっか。」
「了解だお~。」
その後、面接を行い。
無事、我妻は合格した。




