第7話:フロンテラと我妻陽
ここから1章スタートとなります。
空原操が主人公の物語はゆっくりと動き出しはじめた。
操が目を覚ます。
(これが……俗に言う……知らない天井か……。)
見たことない部屋の天井。
すると突然顔を覗き込んでくる男がいた。
「おっ、これは起きたっスね。
御来さん!空原さんが起きたッスよ。」
「君は確か……我妻さん……でしたっけ……?」
「ヒロでいいっすよ!そうっす。
社長の訓練で初日一緒にボコられた我妻 陽っす!」
点滴の刺されている身体に彼の声はとても良く響く。
……頭痛がする。
「……寝かせといて。
そもそもその子はかなり危なかった方なの。」
遠くでカチャカチャと言う金属音と同時に、
ペンを走らせる音が聞こえる。
「はいッス!」
「それがうるさいって言ってる。
患者第一、出てけ。話も出来ない。」
グイッと強い力で引っ張られて行く我妻が、
「唯一の同期なのにぃ~」と引き摺られて行った。
次にちょこんと顔を出したのは、
黒髪の……小さな女の子だった。
(……小学生?)
そんな印象を受ける。
「……何よ。あんた失礼なこと考えてるでしょ。」
バレていた。
「若そうだなーって思って。」
「言葉を選んだのは褒めたげる。
私、フロンテラの医療担当の天国 御来。」
「無駄は嫌いだからこれを聞いたら大人しく寝ること。
アンタは貧血で倒れた。
アンタの固有の代償は血液ね。はい、おやすみ。」
そのまま覗き込むのを辞めて、
コーヒーを飲みながらカルテを書く未来。
「代償?それはあの……。」
口を開いた瞬間。
「だからぁ……、無駄は嫌いなの。」
小さな氷の針が飛んできて身体に刺さった瞬間、
操は意識を手放した。
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一方追い出された我妻は……。
「いやー!フロンテラ凄いっスねー!」
感動していた。
壁と床は鉄でできている、少し味気ない廊下。
しかし、非日常を形取るには十分な廊下だ。
「社長のあんなこぢんまりとした事務所とは大違いっス!」
本人の真横で純粋さの暴力を放っていた。
「我妻クン……。君がフロンテラの所属になるかどうか。
面接と実力テストがあるって言ったはずだよぉ〜?」
「もしも、
受からないようなら僕がミッチリしごいて……。」
社長からの圧。
「あー!えー!冗談ッス!
山本警備会社の事務所サイコー!」
「そういうところを見るとぉ……
やっぱり訓練が足りなかったかなぁ?」
「ナンデ!嫌ッス……社長〜冗談ですやぁ〜ん。」
くだらない会話をしながら、
コツコツと廊下を歩く我妻と山本。
その対面から別の人影が歩いてきた。
「おや、やまもっちゃんに我妻くん。
空原くんは平気だったかな?」
赤い髪の女の人、茜が歩いてくる。
「茜さん!オス!空原さんは目覚めてたっス!」
「出来れば威厳ないからやまもっちゃんは辞めて欲しいけどなぁ〜。」
「そっか、ならよかった。
あとやまもっちゃん、それは飲めないなぁ。
フロンテラを抜けたとは言え、
ウチらの部下だったのには変わりないからねぇ。」
どうやら二人は馴染の顔のようだ。
「え?山本社長は元フロンテラだったんスか?」
「そうだよ〜。と言っても、
抜けたのは2年前くらいになるけどねぇ〜。」
「そうだね、懐かしい。
その頃からは随分と柔らかい顔になったね。」
「それは脂肪っスか?」
また地雷を踏む我妻。
「……後で訓練場を借りるとしようかぁ~。」
「嫌っス!マジで社長いる時の訓練地獄っス!
結局トリニスタともそんなやり合ってないっス!」
「それは平和な証拠でしょうが~……。」
山本のあきれ顔。そんな二人を見てクスクスと笑う茜。
「そういえばぁ、急な要請だったのに。
茜さんありがとうねぇ。」
山本が頭を下げる。
「全然いいよ、やまもっちゃんの頼みだし、
固有持ちって聞いてたしね。」
「彼の固有については知っていたけど、
VSCに捕まったと聞いたから。
対応はフロンテラの方がいいかなぁってね。」
山本は頭を掻いて未だに申し訳なさそうにしている。
「まぁ御来ちゃんに任せておけば、
空原くんは大丈夫でしょ。それよりやまもっちゃん。」
「空原くんは成り行き上、
仕方ないとしてどうして我妻君までここに?」
「おや~、言っていなかったかな。
彼もフロンテラに入社させてしまおうかと思ってねぇ。」
少し、茜の顔が曇る。
「ウチの方針を知っていて言ってるんだよね?」
「もちろん。」
両者に気まずい時間が流れる。
「あ、あのっス……もしかして俺場違いっスか……?」
「あぁ、いや違うよ!そうじゃなくてね。
ウチは『少数精鋭』でやらせてもらってるからさ。」
茜が先ほどの憂い顔から明るい顔へと戻る。
「フロンテラの人員は今8人、
そこに2人も追加しろって言うのはさ。」
茜が一呼吸する。
「かなり無茶な話なのを理解して言ってるんだよね?」
「あぁ、そうだよ。だけどねぇ。……我妻君が固有魔法を持っていてね、しかも面白そうだったからさぁ~。」
暗い顔とは反対に笑顔のままの山本。
「面接してあげてぇ……くれないかなぁ?」
我妻は息を飲んだ。




