第1章 規律
規則は、人を守るためにある。
私はそう教えられてきたし、疑ったこともなかった。
この場所には、細かい決まりが多い。
提出期限、発言の順番、参加の条件。
どれも合理的で、説明がつくものばかりだ。
守れない人が悪い、という話ではない。
守れないなら、向いていないだけだ。
最初に問題になったのは、時間だった。
彼はいつも少し遅れた。
五分、十分。
大勢に影響が出るほどではない。
だが、積み重なれば空気が乱れる。
注意する声は、最初は柔らかかった。
「次から気をつけて」
「事情があるなら言って」
彼は謝った。
理由も説明した。
納得できる内容だったと思う。
それでも、遅れはなくならなかった。
「規則だから」
誰かがそう言った。
強い言い方ではなかった。
確認に近い口調だった。
私はそれに同意した。
規則は例外を想定しない。
例外を許せば、規則ではなくなる。
次に決まったのは、出席の扱いだった。
一定回数を超えた遅刻は、欠席とみなす。
以前からあったルールを、明確にしただけだ。
誰も反対しなかった。
反対する理由がなかった。
彼だけが黙っていた。
だが、それも問題ではない。
規則は感情を考慮しない。
その日から、彼は来なくなった。
来られなくなった、と言うべきかもしれない。
私は思った。
これは排除ではない。
整備だ。
場は整った。
開始時間が揃い、進行が早くなった。
無駄な確認も減った。
「やりやすくなったね」
誰かが言った。
私はうなずいた。
彼の名前は名簿に残っている。
消したわけではない。
ただ、使われなくなっただけだ。
規則は守られた。
誰も破っていない。
だから、正しい。
私はこの判断を、今も間違いだとは思っていない。




