第9話
召龍学園では通常の高校で行われる授業に加えて「Dragon&Dragoon」の授業も存在している。
この世界にもカードゲームの「Dragon&Dragoon」はあるのだが、この世界の「Dragon&Dragoon」はモンスターを召喚するカードを使い方を学ぶ目的で開発された教育玩具と言う扱いで、カードの使い手を育成する召龍学園では「Dragon&Dragoon」の授業を通じてカードの使い方を教えているのであった。
「『Dragon&Dragoon』ではまずお互いのプレイヤーが自分のデッキから一枚のモンスターカードを選んでフィールドに出します。この時フィールドに出したモンスターカードは『リーダーモンスター』と呼ばれて戦闘は全てこのリーダーモンスターによって行われます。そしてリーダーモンスター以外の後からフィールドに出されたモンスターカードは『サポートモンスター』と呼ばれ……」
教室で先生が「Dragon&Dragoon」の基本ルールを説明しているのを栄人は退屈そうな顔で聞いていた。
前世で「Dragon&Dragoon」を長年遊び、ルールを熟知している栄人にとって今更基本ルールを説明するだけの授業なんて退屈でしかなく、彼は基本ルールを説明している先生の言葉を適当に聞き流しながら横目で同じくクラスにいる一人の男子生徒を見る。
虹城ヒカル。
カードゲームの「Dragon&Dragoon」を題材としたゲーム「ドラグーン・アカデミー」の主人公で、近い未来でゲームでの自分、十輪寺栄人と戦うこととなるクラスメイト。
栄人はドラグーン・アカデミーで、虹城ヒカルが十輪寺栄人と戦うことになるまでの話の流れを思い出そうとする。
ドラグーン・アカデミーでの虹城ヒカルと十輪寺栄人の出会いは入学式を終えた次の日……つまり今日の朝、学生寮の食堂で十輪寺栄人がミオに罵声を浴びせているところを目撃するところであった。ゲームの虹城ヒカルは困っている人間を放っておけない正義感が強い性格で、この時に虹城ヒカルはミオに辛く当たっている十輪寺栄人を止めようとして口論になっていたのを栄人は思い出す。
そしてその数日後、何かに苛立っていた十輪寺栄人はいつも以上にミオに辛く当たっていて彼女を殴ろうとした。その時に虹城ヒカルがミオを庇って十輪寺栄人に、モンスターカードを使った戦いを申し込むというのが話の流れであったはずだ。
戦いに勝った虹城ヒカルが十輪寺栄人にミオを解放するように言うと、それに対して十輪寺栄人は「そんな女なんかに興味はない! 好きにすればいい!」と負け惜しみを言ってからミオを解放して、それからはゲームに登場しなくなる。
虹城ヒカルに負けた十輪寺栄人がその後どうなったのかは誰も知らない。負けたことがよっぽどショックで引きこもったのか、それとも自主退学したのかは分からないが、とにかくヒカルと関わるとゲームの十輪寺栄人と同じように自分に不利益なことが起きる可能性があると栄人は考えた。
(でも俺はミオに辛く当たっていないし、今朝の食堂でもヒカルはいたけど、こちらにあまり興味を持っていないようだったし、今のところ大丈夫なのかな?)
確かに栄人にもゲームの十輪寺栄人と同様に「紅海ミオを敵視する理由」があるにはある。しかしだからといって栄人はミオに辛く当たるつもりはないし、その結果としてヒカルが自分に敵対する意思を持っていないことに栄人は一先ず安心すると、このままヒカルとはあまり関わらないでおこうと心に決めるのであった。




