第8話
召龍学園は極東国が保有している小さな島に建てられた学校で、島には召龍学園の校舎だけでなく生徒達が暮らす寮に、実際にモンスターを呼び出して戦わせる訓練場もあり、その規模は一つの街程であった。
そして学生寮の一室で栄人は鏡を見ながら難しい顔をしていた。
「……毎朝思うんだけど、やっぱり俺の頭って変だよな?」
鏡に映っている栄人は、金色に染めた髪をマッシュルームカットにしていて眼鏡をかけており、偏見が入っているかもしれないがどことなく「成金のお坊っちゃま」というイメージがする格好をしていて、これはゲームの十輪寺栄人と全く同じ格好であった。
もちろんこの髪型は栄人の本意ではない。
ゲームの十輪寺栄人のようになりたくない栄人は当然、最初はこの髪型にするつもりはなかったのだが、いくら髪型を変えても気がつけばマッシュルームカットみたいな髪型になっている上に髪の色も金色になっているし、思い切って髪を短くしてもすぐに髪が伸びてマッシュルームカットになってしまうのだ。家族や友人に相談しても、誰も髪型どころか髪の色も勝手に変わってしまう異常事態を不思議に思わないばかりか全員口を揃えて「似合っている」と言い、やがて栄人は諦めてゲームの十輪寺栄人と同じ髪型にしたのだった。
「まぁ、こうなったらもう毎朝髪型を整える時間を節約できると思えばいいんだけどさ?」
「栄人様。そろそろ朝食の時間です。食堂へ向かいましょ」
栄人が何があっても強制的にマッシュルームカットにしてくる自分の髪について前向きに受け止めることにすると、部屋のドアがノックされてドアの向こう側から自分の付き人である二人のメイドの一人の声が聞こえてきた。
「分かった。すぐに行くよ」
栄人は返事をすると朝食を摂るため食堂に向かうことにした。
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食堂は学生寮の一階にあり、そこでは多くの学生が食事を摂っているのだが、学生達の多くは驚いたような顔で食堂の一角、栄人と彼に付き従っている二人のメイドの方へ視線を向けていた。
「見られているな。……当然と言えば当然だけど」
昨日の入学式と同じように周囲からの視線を集めている栄人は、学生達が自分に注目している理由、自分とテーブルを挟んで朝食を食べている二人のメイドに視線を向ける。朝の食堂に突然メイドを二人も連れて現れ、一緒に朝食を食べている学生がいたら注目されるのは無理のないことだろう。
「そうやね、学校にメイドさんが二人もおったら、そら目立ちますわな? 栄人様には必要ないかもしれまへんけど、ウチらもこれがお仕事なので堪忍な?」
「あ、あの……。すみません」
栄人の呟きに彼の前で朝食を食べていた二人のメイドの一人、栄人よりも少し歳上で長い銀色の髪をポニーテールにしたメイドが方言が混じった言葉で謝罪をし、栄人と同じくらいの年齢で艶のある紅の髪をツインテールにしたメイドがどこか怯えた表情で謝罪する。
銀色の髪をしたメイドは白銀ユキ、紅の髪をしたメイドは紅海ミオと言う名前で、世間では栄人の実家が雇った使用人ということになっているが、実際は国の政府が栄人の護衛や身の回りの世話をさせるために送った人材なのである。
異世界へと転移できるゲートカードを所有していてモンスターカードを異世界から取ってこれる栄人の存在は、国から見ても無視できない大きな存在だ。そのため極東国は彼をゲートカードを狙う人間から守るためにユキとミオをメイドという形で栄人の元に送ったのだ。
ユキは栄人と一歳しか違わないが、すでに飛び級で大学を卒業しているだけでなく様々な格闘技をマスターしていて、栄人の護衛を担当している。ミオの方は栄人と同い年で、飛び級で大学を卒業しているとか格闘技をマスターしているといった時別な点はないが、ある理由から栄人の付き人に選ばれて身の回りの世話を担当していた。
国がユキとミオを自分のメイドにした理由は栄人も理解しているのだが、それでも栄人はここで二人の顔を見ていると落ち着かない気持ちになるのだった。
何故ならユキはともかくミオの方は、ゲームで十輪寺栄人と主人公が戦うきっかけとなる人物なのだから。




