第7話
「今思い返せば、あれから色々あったな……」
召龍学園の入学式が終わった後、栄人は五年前の初めて自分のカードを使った夜のことを思い出して呟いた。
五年前のあの日、異世界でモンスターカードを何枚か集めてから栄人が現実世界に戻ると、数時間異世界を探索していたのに現実世界では数分しか経っていなかった。
公園から家に帰った栄人はまだ眠っている両親を起こして自分のカードのことを説明すると、当然ながら両親は驚いたが異世界で得たモンスターカードを見せたら信じてくれた。そしてその日、栄人は学校を休んで父親と一緒に異世界で得たカードを売りに行くと百万近い金額で売れて、そのお金で一家はこの数年で一番豪華な栄人の誕生パーティーを開いた。
それから栄人は毎日のように異世界に行ってモンスターカードを手に入れると、モンスターカードを売って大金にと変えた。その大金によって父親は友人の連帯保証人となったことで背負わされた借金を三年で返済することができ、更には息子から出してもらった資金を元手に昔からの夢であった事業を開いて成功し、今では大手のハンバーガーチェーン店のオーナーとなった。
ここまで聞くと栄人と彼の一家の人生は順風満帆のように思えるが、ここまで来るまで様々な出来事があった。
借金がある時は全く接触してこなかったくせに、羽振りが良くなった途端にすり寄ってくる親族達に金の援助を何度も要求され、父親と母親が軽い人間不信になりかけたり。
両親と同じく、家が金持ちになった瞬間に大勢の取り巻きが現れた結果、素直で優しい性格だった妹が漫画に登場するいかにもなお嬢様キャラになったり。
何回も異世界に行ってカードを手に入れているうちに、どこからか栄人がゲートカードの持ち主であることを嗅ぎつけた国の役人達が家に押しかけてきたり。
ゲートカードの持ち主である栄人とその家族の安全を守るという名目で、国が管理している住居に強制的に引越しさせられたり。
様々な出来事の末、栄人はこの五年で貧乏な家庭の少年から、ゲームの十輪寺栄人と同じ大企業の御曹司となり、この召龍学園の入学することになった。
正直な話、前世のゲームの知識から召龍学園で大きな事件が起きることを知っている栄人は、召龍学園に入学することに乗り気ではなかった。入学したらゲームの主人公達と戦うかもしれない上に事件に巻き込まれるかもしれないとなれば、入学したくないと思うのも仕方がないだろう。
しかしカードゲームの実力が何よりも重要視されているこの世界では、極東国で最高峰のカードゲームの学園である召龍学園に入学することは大きな意味があった。
召龍学園を卒業すればそれだけで大きなステータスになるだけでなく、優秀な成績を収めれば在学中にプロスポーツの選手になれたりもするし、そうなれば父親の事業に箔がつく可能性が大いにある。それに何よりゲートカードの持ち主である栄人は国から護衛がついているが、それでも彼を狙おうとする者がいなくなったわけではなく、召龍学園で学ぶことは自分の身を守る力をつけることに繋がる。
そう政府の役人に説得された栄人は一抹の不安を抱きながらも召龍学園に入学することを決めたのであった。
「結局、今のところ原作のゲーム通りに進んでいるな。これが世に聞く修正力って奴か?」
「栄人様? ぶつぶつと独り言なんか言ったりして、どないしました?」
思わず独り言を呟く栄人に誰かが話しかけてきて、彼が声がしてきた方を見るとそこにはメイド服を着た二人の女性が立っていた。メイド服を着た二人の女性は、ゲームでも十輪寺栄人に付き従っていた女性達であり、彼女達の存在もまた原作のゲームと同じように物事が進んでいる証明であった。




