第6話
栄人が乗るモンスター、ヴォルダイブ・ザイラーはまるで栄人の意思を読み取っているかのように彼の思う通りに動き、栄人の方も長年乗ってきた自転車に乗るような感覚で自然と体が動いてモンスターを操縦してきた。
「なるほど、これは便利だな」
カードの力で召喚したモンスターは自分の体のように動き、これならば操縦ミスで事故を起こす確率は他の乗り物と比べてずっと低いだろう。これならばモンスターを召喚できるようになった子供がアルバイトの戦力になれるはずだと栄人は納得した。
それから栄人はしばらくモンスターに乗って周囲を探索して、自分が異世界にある島に転移したことを知る。そしてその島は栄人が前世で知った「Dragon&Dragoon」の知識にある島であった。
栄人が前世で知った「Dragon&Dragoon」の公式設定によると、彼が今いる島は海底火山が無数にある海域にある火山列島であり、そこには海の中だけでなくマグマの中も泳ぐモンスターも多数確認されているらしい。栄人が乗っているモンスター、ヴォルダイブ・ザイラーもそのモンスターの一体で、この島とその周辺の海域だけしか見られない海とマグマの両方を自由に泳ぐモンスター達のことを「泳炎竜」と呼んでいるのだ。
この異世界に来る時に栄人が使ったカードの名前は「泳炎竜の故郷」。それはつまりはヴォルダイブ・ザイラーを初めとする泳炎竜と称されるモンスター達が生息しているこの島のことであり、この島に来れたことは栄人にとってこの上ない幸運であった。
「この島だったら他の泳炎竜のカードを手に入れて前世のデッキを組めるはずだ。……ん? あれは?」
前世から「Dragon&Dragoon」のファンで、カードバトルの大会にも出場したことがある栄人は、この世界でも前世で自分が愛用してきたデッキを組もうと考えて他の泳炎竜がいないか周囲を見回すと、少し離れた所で一匹のモンスターの姿を見つけた。そのモンスターは尻尾の部分が機械の、四足歩行の恐竜のような外見をしていた。
「あれは……『マキアム・テル』だ」
栄人が見つけたモンスター、マキアム・テルは彼が今一番欲しい泳炎竜のモンスターではないが、現実世界ではとても有名なモンスターだ。「Dragon&Dragoon」の公式設定だとマキアム・テルは、このモンスターが生きる異世界のどこにでも生活していて、現在世界の人間が十歳くらいの時に得られるカードに選ばれることも多いらしく、実際に自家用車だけでなく重機代わりに使用されている所を栄人は何度も見てきた。
「……あまり珍しくないモンスターだけど、あのモンスターのカードでも十万円以するんだよな?」
前世ではマキアム・テルは希少価値がほとんどなく、十枚以上でまとめて売っても百円の値もつかないカードであったが、この世界では話が違う。この世界ではマキアム・テルのカードですら一枚で十万円以上の値で取引されており、目の前にあるマキアム・テルのカードを手に入れれば今の家族の食費一ヶ月分になると考えた栄人は、目の前のモンスターと戦う覚悟を決める
「やるぞ、ヴォルダイブ・ザイラー! ブレイジングミサイル!」
「っ!」
栄人は大声を出してヴォルダイブ・ザイラーに命じると、その言葉に応えてヴォルダイブ・ザイラーは自分の背中に生えている金属の筒の先端から無数の火の玉を空に向けて放つ。そしてその無数の火の玉は弧を描くように地面にと落ちていき、栄人の前方にいるマキアム・テルの巨体を貫いた。
「………!?」
空から降ってきた無数の火の玉に身体を貫かれたマキアム・テルは、声を上げる間もなく絶命すると地面に倒れる。すると地面に倒れたマキアム・テルの巨体は光に包まれ、光が消えるとそこにはマキアム・テルの姿はなく、代わりにマキアム・テルのカードが一枚だけ地面に落ちていた。
「……結構簡単に倒せたな。……うん、間違いなくこれはマキアム・テルのカードだ。前世だったらほとんど価値のないカードだったけど、今ではこれだけで十万円か。……はは」
ヴォルダイブ・ザイラーから降りてマキアム・テルのカードを拾った栄人は、前世とこの世界の常識の違いに戸惑いながらも、自分の未来が大きく変わっていく予感を感じて気づかぬうちに笑みを浮かべるのであった。




