第33話
(ミスった……! 『泳炎竜の故郷』をデッキから外せない以上、手札を見てくるって分かっていたタツミとの戦いは絶対に避けるべきだったのに……何をやっているんだ、俺は!?)
タツミの呟きを聞いた栄人は心の中で自分の失態を盛大に呪った。
カードを使ってモンスターを召喚した時、自分の魂から呼び出したカードは必ずデッキに組み込まれる。だから栄人には「泳炎竜の故郷」をデッキから外すという選択が取れず、今のように手札に「泳炎竜の故郷」が来た時にタツミに手札を覗かれるという展開は十分に予測できたはずであった。
しかし栄人はこの世界に転生してからはずっと異世界でモンスターとばかり戦っていて、まともに人間相手とモンスターを使った戦いをしたのは先日のヒカルとの一戦だけで、その事から人間に対する警戒心が鈍っていた。それに加えて前世からのカード知識の影響か、心の何処かで「泳炎竜の故郷」を観られても問題ないという考えが芽生えていて、今のような事態を招いたのである。
(政府からもユキからもゲートカードのことは絶対に秘密にしろって言われていたのに……って、何でここでユキの顔が出てくるんだ?)
栄人の脳裏に笑顔を浮かべながら威圧感を放つユキの顔が浮かび上がり、その事に疑問を覚えながらも栄人は一旦ユキのことは忘れてタツミの方を見ると、意外にもタツミは冷静に自分の前に現れている「泳炎竜の故郷」のカードの幻を見つめていた。
「なるほど。そういうことだったのね……」
「あ、あれ?」
ついさっきは「泳炎竜の故郷」のカードの効果を見て驚いていたのに、今ではすっかり落ち着いているタツミの姿に栄人が戸惑っていると、それに気づいたタツミが栄人に視線を向ける。
「あら? どうかしたのかしら?」
「いえ……? さっきまで驚いていたと思っていましたから……」
「ああ。確かに最初は驚きましたけど、今はむしろ納得しているわ」
「納得?」
栄人がタツミの言葉に首を傾げると彼女は頷いてみせた。
「ええ。これはネタバレになっちゃうけど、召龍学園は近いうちに十輪寺君を『生徒会執行部』に編入させる予定らしいのよ。生徒会執行部というのはモンスターを使って問題を起こす生徒を、同じくモンスターを使って鎮圧する生徒会直属の部隊で、私も生徒会執行部の一人なの」
「……そうですか」
モンスターを使って問題を起こす生徒を同じくモンスターの力で鎮圧すると聞いた栄人は、確かに戦闘狂なところがあるタツミには生徒会執行部がお似合いだと思い、話の続きを聞くことにした。
「それで生徒会執行部って、普段は先生や生徒会から推薦された生徒の中から生徒会が選ぶようになっているのだけど、今回の十輪寺君の場合は学園が『絶対に執行部に入れろ』って言ってきて、しかもその理由は言えないって言うのよ? だから生徒会長は私にこの異世界実習で十輪寺君と戦えって言ってきたわけ」
「生徒会長が?」
「そうよ。カード使いを育成する召龍学園がそこまで言うには何か事情があって、それは間違いなくカードが関係している。だから相手の手札を観察できる私に声がかかってきたってわけ。そうじゃなかったら、授業中に戦いを挑むわけがないでしょ?」
「ええっと、それは……」
実際タツミだったら授業中に戦いを挑んできてもおかしくないと思う栄人であったが、生徒会長が彼女に自分の調査を命じた理由は納得できるものであった。
「そして十輪寺君の手札を見て学園の指示にも納得できたわ。確かにゲートカードの持ち主だったら、学園も目が届きやすい生徒会執行部に入れたいだろうし、その理由を言えないでしょうね」
「? 何で俺のことを説明しないんですか?」
「そんなの秘密を他の人達に知らせないために決まっているでしょう? ゲートカードの存在が知られたら貴方を巡って国同士の戦いが起こっても不思議じゃないけど、味方にすら詳しい説明をしていなかったら万が一情報が漏れても伝わるのは憶測レベルの情報ですむじゃない?」
「なるほど……」
タツミの説明を聞いて栄人は、タツミが自分に戦いを挑んできた理由と、召龍学園の人間のほとんどがゲートカードである「泳炎竜の故郷」のことを知らなかった理由を、今度こそ完全に理解したのだった。




