第3話
「……もしかして俺、ゲームの十輪寺栄人とは同姓同名の別人だったりするのか?」
自分の自宅である安アパートの一室に帰った栄人は、部屋の中を見回してから一人呟いた。
部屋は少ないスペースに数人の家族が暮らしている様子が分かり、部屋を見ているうちに今の自分、十輪寺栄人の記憶が蘇ってきた。
栄人の父親は今から数年前に勤めていた会社が倒産して、派遣社員やアルバイトを続けて栄人を含めた四人家族を支えていた。しかし友人の借金の連帯保証人になっていた栄人の父親は、その友人が逃げてしまったせいで多額の借金を背負うはめになり、栄人の一家は苦しい生活を強いられているのだった。
記憶を取り戻して自分の今の状況を確認すればするほど、ゲームの十輪寺栄人のイメージと違うのが分かり、栄人が自分とゲームの十輪寺栄人は同姓同名の別人ではないかと考えるのも仕方がないことだろう。
「……まあ、仕方がないか」
ゲームの十輪寺栄人のような金持ち生活を体験できないことは正直残念ではあるが、栄人はこの世界での家族のことは嫌いではなかった。
毎日仕事を必死に頑張って家族を養おうとしている父親。
父親が借金を背負っても決して見捨てず、家族を愛してくれる母親。
辛い生活の中でも不満やわがままを言わず、家族の手伝いをしている妹。
今の家族が理想の家族であるも理解している栄人は、苦しくても今の生活を否定するつもりはなかった。
「明日は俺の十歳の誕生日だし、カードが使えるようになればいいな……」
この世界の人間は大体十歳になると自分だけのカードを呼び出して、そのカードの力でモンスターを召喚したり魔法のような力を発揮することができる。そしてモンスターを召喚できるようになった子供は、親の承諾や国からの許可を受けてからになるが、それなりに高額な仕事をすることも可能である。
明日カードを呼び出せるようになれば、自分もモンスターを使ったアルバイトをして少しでも家族の助けになれるかもしれないと考えた栄人は、どうか明日カードが呼び出せるようになり、そしてカードで召喚できるモンスターが強力であってほしいと願うのであった。
◻︎◼︎
「………っ!?」
その日の深夜。零時を回って日付が変わった瞬間、栄人は自分に起こった何らかの異変に気づいて目を覚ました。
「この感覚……もしかして……」
栄人は自分に何が起こったのか正確に分かっていないが、それでも一つの確信を得ており、手を自分の胸に当ててすでに眠っている家族を起こさないように小さく呟いた。
「出てこい。……っ!」
栄人が小さく呟くと、彼の胸に当てた手の中に三枚のカードが現れた。
右側には西洋のドラゴンの絵が、左側には東洋の竜の絵が描かれているカード。
それは間違いなく栄人が前世で遊んでいたカードゲーム「Dragon&Dragoon」のカード、その裏面であった。
「ほ、本当にカードが出せた……! 一体どんなカードなんだ?」
この世界はカードの力が全てだ。
強力なカードを持っていると、それだけで注目されてモンスター同士を戦わせるプロスポーツの選手になれたりするし、大きな会社だけでなく警察や軍にも高待遇で迎えられることだってある。
何より、前世でファンであったカードゲームのモンスターを実際に召喚できることに強い興味を持つ栄人は、自分のカードを裏返して内容を確認するのだが……。
「……………え? 何だコレ? これじゃあ、ほとんど使えないじゃないか?」
先程までの期待と興奮に満ちた表情から一転して、栄人は絶望した表情で呟いた。




