第24話
「はぁ……。今日は疲れたな……。肉体的じゃなくて精神的に疲れたよ……」
ヒカルと戦った日の夜。栄人は学生寮の自室にある風呂に入りながらため息を吐いた。
ヒカルとの戦いは特に苦戦する事はなく、前世の「Dragon&Dragoon」の戦いを知る栄人からすれば戦いではなかった。むしろ周囲の観客達のやり過ぎを咎めるような視線が栄人にとっては負担であったのだが、それはそれで栄人にとっては悩みの種であった。
「ヒカルのヤツ……。あんな調子で大丈夫なのかよ?」
栄人が思い出すのは、戦いで泳炎竜の特殊効果によるダメージを受けて気絶してしまったヒカルの姿だ。まだライフポイントが三分の二以上残っていたのに、ダメージを受けた衝撃であっさり気絶してしまうようではこれからの戦いが不安でしかない。
十輪寺栄人というキャラクターは、ゲームのドラグーン・アカデミーの序盤で主人公の虹城ヒカルに倒されるチュートリアル用の敵キャラにすぎない。もちろん栄人とゲームの十輪寺栄人は人格も実力も全く違う別人なのだが、栄人から見た感じだと今のヒカルではゲームの十輪寺栄人にすら勝てないだろう。
今のままだと近い将来やって来る、ゲームの十輪寺栄人なんかとは比べ物にならない強敵を相手にヒカルが手も足も出せないまま倒される未来しか見えなかった。
「いや……まだヒカルが完全に弱いと決めつけるのは早いかもしれない。あの戦いでもまだヒカルは手札が二枚あったし、それに明日になれば……ん?」
栄人が自分に言い聞かせるように一人呟いていると、突然風呂場のドアが開いて栄人がそちらを見ると、バスタオルを一枚だけ身体に巻いたミオが顔を真っ赤にしながら風呂場に入ってきていた。
「……………!? ミ、ミオ!? お前、何してんだよ? 俺がまだ入っているだろ!?」
「は、はい。分かって、います……。その、お背中を、流そうと思って……」
慌ててミオから視線を逸らして言う栄人に、ミオは更に顔を赤くして蚊の鳴くような声で返事をする。
「背中って……どうして急にそんなことを?」
「その、昼間のカードのお礼にと思って……。それに私、栄人……様に助けられてばかりで……昔あんなにイジメた上に、栄人様の家に借金があったのも私の叔父さんが原因だったのに……」
どうやら昼間に母親の入院費代わりに渡したカードの件と、過去のイジメの件のことからミオは今回のことを考えたようであった。考えてみれば過去にミオが栄人をイジメた件については、栄人があまり気にしておらず言及していないこともあって彼女はまだ正式に謝罪をしておらず、その事もミオがこのような行動に出た理由の一つなのかもしれない。
「あ〜……。そういうことはもう……」
「だ、だから、私、これからこういうこともやろうかと思って……。私って、栄人様の身の回りのお世話を命じられているから、だから……!」
「ちょーと、待ったぁ!」
ミオに「もう気にしなくてもいい」と言おうとした栄人であったが、彼の言葉よりも先にミオが話し出そうとしたその時、風呂場の入り口から新たに人の声が聞こえてきた。栄人とミオが声が聞こえてきた方を見るとそこには、ミオと同じくバスタオルを一枚だけ身体に巻いた格好のユキが仁王立ちしてミオを睨みつけていた。
「ユキ?」
「ユキさん?」
「まったく……。ミオちゃんってば、ちょっと目を離した隙に何、抜け駆けしてはるの?」
「抜け駆けって……私はそんな……」
「お黙りなさいな」
明らかに不機嫌なユキの言葉にミオは反論しようとするが、ユキはミオの言葉を聞く気は全くないようで首を横に振った。
「ええか、ミオちゃん? 栄人様は『ウチの』や。だからこういうお仕事は全部ウチの役割や。分かりました?」
「いや、分からないから! 今日は疲れているし、明日は大切な『実習』があるんだから今日は早く休みたいんだよ! 二人とも出ていってくれ!」
このままだと風呂場で騒ぎが起こると感じ取った栄人は、思わず大声を出してユキとミオの二人を風呂場から追い出すのであった。




