第23話
ミオの話を聞いて栄人はミオの母親のことを思い出す。ミオの母親は優しくも厳しい女性で、栄人をイジメるミオを何度も叱っていたし、何より栄人の母親の数少ない友人であった。
「おばさんが入院した? 一体何故?」
「それが……過労らしくて……」
栄人は自分の質問に答えるミオの言葉を聞いて意外そうな顔をする。
「過労? どういうことだ? ミオが俺のメイドになった時に紅海家の借金はこっちが代わりに払って、おばさんも無茶な仕事をしなくてよくなったはずだろ?」
栄人の言う通り、ミオの父親が残した借金は十輪寺家と政府が代わりに払っていて、表向きは十輪寺家からの借金という形で、あと数年ミオが栄人のメイドをしていれば無事に完済できるという契約となっていた。そのためミオの母親は借金を返すために無茶な仕事をしなくてよくなり、今は自分の生活費だけを稼ぐだけの無理のない仕事をしていると、以前栄人はミオから聞いていたはずだった。
「……私もそう聞いていたんだけど、お母さんってばちょっとでも貯金をするために仕事の量を増やしていたみたいで……。それと昔、借金を返すために頑張っていた時にかかった病気が急に悪くなったらしくて……」
「それで俺からカードを貰って入院費に変えようとした、と……?」
「はい……」
ミオに栄人が聞くと彼女は再び顔を俯かせて答えて、ユキが呆れたような顔となってため息を吐く。
「はぁ〜……。それならそうともっと早く言えばええのに。お母様が病気で倒れたんやったら、こっちだってお金の都合がつけられたんやから」
「そうだな。……ほら、コレ」
「ちょっ!? 栄人様?」
ユキの言葉に同意した栄人は腰にあるポーチの一つからデッキ補強用の予備のモンスターカードを三十枚ほど取り出すと、驚き止めようとするユキを無視してミオに手渡す。
「あ、あの、これって……?」
「……とりあえず、そのカードを売れば入院費は何とかなるだろ。カードを売る方法はユキに教えてもらえ。それでもしまだ足りなかったりしたら雇用先の方に相談しろ」
「は、はい。……ありがとうございます」
カードを手渡した栄人にミオが頭を下げて礼を言うと、栄人達のやり取りを見ていたミサキとヒカルが栄人に話しかけてきた。
「十輪寺君……ごめんなさい! 私、ろくに話もしないで、ミオちゃんがメイドになっているだけで十輪寺君を悪者扱いしてしまって……本当にごめんなさい!」
「十輪寺……俺からも謝らせてくれ、すまなかった。俺も心のどこかでお前を疑っていた。だけど今回のことで全て誤解だったと分かった。すまなかった」
「本当ですわ。ろくに話もせんと『ウチの』栄人様を悪者扱いせんといてくれません? 『ウチの』栄人は本当に、それこそ聖人クラスで優しいお人やねんからね?」
「いや、そこで何でユキが答えるの? というかウチのって一体どういうこと?」
頭を下げて栄人に謝罪をするミサキとヒカルに、何故か栄人ではなく腰に両手を当てたユキが返事をする。あと、ユキの言葉にどこか変な部分があったような気がした栄人であったが無視された。
(……だけど、これで目先の問題が解決したから良しとしておくか)
ゲームのドラグーン・アカデミーでは、虹城ヒカルに負けた十輪寺栄人はそれ以降登場しなくなった。
だが栄人は本来なら敗北するはずだったヒカルとの戦いに勝ち、今のヒカルとミサキの様子から考えて、もうヒカルが戦いを挑んでくることはないだろう。
栄人は入学した時から……いや、前世の記憶を取り戻した五年前から悩んでいた問題が一つ解決したことに胸を撫で下ろすのであった。




