第22話
ゲームのドラグーン・アカデミーではどうだったか分からないが、現実世界での十輪寺栄人と紅海ミオは小学一年生からの付き合いで、いわゆる幼馴染と呼ばれる関係であった。
しかし栄人が小学一年生になる時にはすでに十輪寺家は栄人の父親が友人の多額の借金を背負ったせいで極貧生活を強いられており、そのことが理由で栄人はクラスからイジメを受けていた。
そしてそのイジメの中心人物がミオであったのだ。
小学一年生の頃からずっと栄人と同じクラスであったミオは、ことあるごとに貧乏であるという理由だけで栄人をイジメてきた。だがミオは十歳になったある日、栄人が貧乏である理由が、自分の叔父が借金を作ってそれを連帯保証人であった栄人の父親に押し付けて逃げたからだということを知る。
事実を知ったミオはこれまでの事を栄人に謝罪すべきかと悩んだが、彼女が謝罪をするよりも前に栄人は、ゲートカードの存在を知った極東国の政府によって家族ごと別の地へ引っ越しをさせられ、ミオは栄人達が何処へ引っ越したのか知ることができなかった。
ミオが栄人と再会したのは彼が引っ越しをした日から三年と少し経った、彼女が中学二年生になったばかりの頃である。この頃のミオは事業に失敗した父親が自分達を置いて何処かへ失踪し、母親と二人で借金をしながら何とかその日を過ごすという日々を送っており、そんな時に政府の人間がミオにある仕事を持ちかけてきたのだ。
政府の人間がミオに持ちかけてきた仕事は、栄人のメイドとなって彼の身の回りの世話をすること。
ゲートカードを使って異世界に転移してモンスターカードを持ち帰ってくる栄人は、今では極東国にとってなくてはならない人物で、彼の周りに監視と護衛を兼ねた人物をつけるのは至極当然のことだろう。すでに栄人の側には護衛としてユキを三年前からつけているのだが、彼女一人だけだと負担がかかり過ぎると考えた政府の人間が新たに目をつけた人間がミオであったのだ。
小学一年生の頃から栄人と知り合いであるミオならば、彼の身の回りの世話をしつつ監視を行うことができ、ユキの負担も減るだろうと考えた政府の人間はミオに栄人のメイドになるように頼み込んだ。メイドの仕事の給料はかなりの高額で、失踪した父親の分を含めて多額の借金を抱えて日々の生活にも困っていたミオは、すぐに栄人のメイドとなることを了承した。
……誤解のないように言っておくが、この話を持ちかけてきた政府の人間には一切の悪意はなかった。
ゲートカードを持つ重要人物だが多感な年頃になりつつある栄人の事情、親の借金に悩まされているミオの事情、そして極東国の事情を考えて誰も損をしない提案をしたつもりだったのだ。一つ失敗があるとしたら、それは栄人とミオの関係調査が不十分で、ミオが栄人に長期間のイジメを行なっていた事情を知らなかったこと。
しかしその政府の人間の一つの失敗で、栄人とミオは今日まで微妙な気持ちを抱く日々を送ることになったのである。
「……と、まあ、そんな訳だ」
「そ、そんな……!」
『『………』』
栄人がゲートカードの所有者となった部分だけをぼかしてミオの関係と彼女が自分のメイドになった理由を話すと、ミサキはショックを受けた表情となる。同じ医務室にいるユキは素知らぬ顔で、ヒカルは何を言えばいいか分からないといった表情で、そして当の本人であるミオは俯き、誰も話そうとしなかった。
(……もしかして、ゲームの十輪寺栄人も俺と同じ過去を経験したのか?)
話をしているうちにミオにイジメられていた記憶を思い出した栄人は、ゲームのドラグーン・アカデミーに登場した十輪寺栄人も、自分と同じ過去があったのではないかと思った。
小学生の頃に自分達家族が貧乏となった原因を作った人物の親戚にイジメられ、何とか借金を返して金持ちになると、今度はそのイジメをしてきた人間が落ちぶれて自分のメイドになれば、性格も変に歪むかもしれない。ゲームで十輪寺栄人が紅海ミオに辛く当たっていたのは、そんな理由があったのかと栄人が考えていると、ミサキが恐る恐る話しかけてきた。
「あ、あの……? それで、その……何で、お昼休みにミオちゃんは貴方に頭を下げていたの?」
「ああ、それは俺も気になっていたんだ」
ミサキに言われて栄人は今思い出したとばかりにミオに視線を向ける。
ヒカルと戦うことになったきっかけは、昼休みにミオが栄人に涙を流しながら頭を下げてカードを譲ってほしいと頼んできたのを目撃されたことだ。結局あの時は途中でミサキとヒカルが乱入してきたことにより、何故ミオがカードを必要としているのか聞けていなかった。
「ミオ? どうして急にカードが欲しいだなんて言い出したんだ?」
「……実は少し前に病院から連絡がきて、お母さんが倒れて入院したみたいなんです」
栄人に聞かれたミオは俯いた状態のままゆっくりと口を開くと、栄人にカードを譲ってほしいと頼んだ理由を話した。




