第14話
「ただいま」
「はい。お帰りなさいませ、栄人様」
「お、お帰りなさい……」
栄人がモンスターが住む異世界から現実世界に戻るとそこは学生寮の自室で、帰りを待っていたユキとミオが出迎えてくれた。異世界で栄人は五時間くらいモンスターを探していたが、部屋の時計を確認するとまだ十分くらいしか時間が経っていなかった。
「ユキ。これ、今回手に入れたモンスターカード」
「おお〜!? 今日はまた随分たくさん仕入れてくれはりましたな?」
「………!?」
栄人が異世界で手に入れたヴォルダイブ・ビグマスのカードを含めた三十枚近いモンスターカードを取り出してユキの前に差し出すと、それを見てユキとミオが驚いた顔となる。このカードが何よりも価値がある世界では、栄人が差し出したカードの束だけで一財産となるためユキとミオの反応も不思議ではないだろう。
「本当に羨ましいわぁ。ウチも栄人様みたいにゲートカードがあったらなぁ……」
栄人からカードの束を受け取ったユキは受け取ったカードを確認してそう言うと、足元に置いてあった重厚なトランクを開いてカードの束を慎重にトランクの中に入れる。その後でトランクを閉めるとトランクは電子音を鳴らして自動で鍵をかけ、その厳重さに思わず栄人は口を開く。
「相変わらず凄く物々しいな? ……おっと?」
栄人がそこまで言った時、彼の目の前に三枚のカードが現れ、栄人は三枚のカードが地面に落ちる前に手に取った。現れた三枚のカードは異世界でヴォルダイブ・ビグマスの群れと戦っていた時、ヴォルダイブ・ザイラーの特殊能力発動の代償として破壊した泳炎竜のカードであった。
戦闘中にモンスターからの攻撃や他のカードの効果で破壊されたカードは、基本的にその戦闘ではもう使えないが、召喚したモンスターを全て戻してしばらくすると使えるようになり、その際には今のように所有者の元へ戻ってくるのだ。
「やっぱり便利だよな、このカード。……やっぱりその物々しい扱いも当然かもな?」
一度手元から離れても自動で戻ってくるカードの便利機能を再確認した栄人は、ユキがカードの束を厳重に保管している姿を見て言った言葉を撤回する。
「そうやろ? それにカードには『発見者とそれ以外で最初に使った人しか使えへん』っちゅう使用者を登録する機能もあるからなぁ。そら、こない厳重な扱いになるのも、高値で売れるのも当然やろ?」
「え? そうなの?」
「……はい? 栄人様、知らなかったん?」
カードに使用者を登録する機能があったとユキから聞かされた栄人は初耳だとばかりの顔をして、それに対してユキも僅かばかりに驚いた顔をする。
「てっきり知っていると思っていたんやけど? 政府の人達から説明されませんでした?」
「い、いや……。説明されたような気もするんだけど……あの時はいきなり国が来て緊張して、あまり頭に入らなかったと言うか……。それに、今まで誰に自分のカードを貸すなんてことはしなかったし……」
ユキに聞かれた栄人は思わず彼女から視線を逸らして言い訳のようなことを言い、ユキは小さくため息を吐く。
「はぁ……。まっ、今回はそういうことにしときますわ。……それにしても今回は随分と泳炎竜のカードを集めたんやねぇ? 泳炎竜のカードは政府の人達からも評判が良いみたいやし、ウチも使ってみたいわぁ」
「あっ、やっぱりユキもそう思うか?」
気を利かせたユキが話題を泳炎竜に変えると栄人は嬉しそうに反応する。気まずい話は終わったという嬉しさもあるが、それ以上にカードゲームのプレイヤーというものは、自分のお気に入りのカードやテーマのデッキを認められると嬉しいものなのであった。
「だったらユキも俺のデッキを使ってみるか? 最初は手札やフィールドのモンスターカードを破壊することに戸惑うかもしれないけど、慣れたら強力だからさ?」
『『………!?』』
栄人が腰に下げているポーチから自分のデッキを取り出してユキに見せると、ユキだけでなくミオまでも驚いた顔をする。
「えっ!? そ、それ、栄人様のデッキやろ? それをウチが使ってもええんですか?」
「うん? 別にいいんじゃないのか? ユキとは結構長い付き合いだし、持ち逃げとかはしないだろ?」
「そ、それはそうやけど……」
驚きながらも栄人のデッキを凝視するユキの言葉に栄人は何でもないように答える。
ここで突然だが十輪寺栄人は転生者である。
転生者である栄人は前世の世界の知識を持つせいか、五年も経ってだいぶこの世界にも慣れたつもりではあるが、それでも常識のズレが生じたりこの世界の人間なら誰でも知っている基本的な知識がないこともあったりする。
だからこそ栄人は知らなかった。このカードが何よりも貴重な世界では「使用者が自分ともう一人しかいないカードを異性に渡す行為が求婚に近い行為である」ことを。
「……ええんですか? そんなことを言われたらウチ……本気にしますえ?」
「………!?」
笑みを浮かべたユキにそう言われた瞬間、栄人はまるで肉食の捕食者に見つめられたかのように背筋が寒くなる感覚を覚えた。
ちなみにだが、今日のこのやり取りによって栄人は将来、大きな苦難が訪れることになるのだが、それはまた別の物語。
「………」
そしてそんな栄人をミオは何やら思い詰めた表情をして無言で見つめるのであった。




