第13話
ライフポイントとはプレイヤーの生命力や耐久力を示す数値であり、カードゲームの「Dragon&Dragoon」の勝利条件は基本的に「先に相手プレイヤーのライフポイントをゼロにする」ことである。実際のモンスターの戦いでのライフポイントは、モンスターを召喚すると自動的に着用されるパワードスーツの耐久力を示していて、ライフポイントがゼロになるとパワードスーツは消えてしまう。
パワードスーツを装着している間はモンスターの攻撃を受けても多少の衝撃や痛みを感じる程度ですむのだが、パワードスーツがなくなると当然ながらモンスターの攻撃を受ければひとたまりもない。栄人はこの五年間、異世界での探索中に何度もモンスターの攻撃を受けたことがあるのだが、それでもやはり命の盾と言うべきパワードスーツが削られる感覚は慣れるものではなく、パワードスーツの下で栄人は炎の熱さとは別の意味で汗を流していた。
栄人は体勢を立て直すべく急いでこの場から離れようとするが、それよりも先に他のヴォルダイブ・ビグマスが仲間の身体に食い千切って特殊能力を発動し、栄人とヴォルダイブ・ザイラーに向けて更なる炎を吹きかける。それによって栄人のライフポイントがまた削られていく。
「やってくれるな。……だけどこれはチャンスだ」
見ればヴォルダイブ・ビグマスの群れは特殊能力の代償による共喰いにより数を減らしており、それを確認した栄人は逆転の一手を打つことにする。
「そっちが特殊能力を使うんだったら、こっちも特殊能力を使わせてもらう!」
栄人が自分の左腕を見て意識を集中させると、パワードスーツの左腕の装甲が変形して内部から五枚のカードが現れる。五枚のカードのうち三枚はモンスターカードで、栄人は三枚のモンスターカードを手に取ってそれを前方に投げ捨てると、ヴォルダイブ・ザイラーが首を伸ばしてモンスターカードを一口で飲み込む。
「ヴォルダイブ・ザイラー! 特殊能力発動!」
栄人の言葉に応えてヴォルダイブ・ザイラーの背中にある金属の筒、正確には筒と筒との間にある光の膜が強い光を放ち始める。
ヴォルダイブ・ザイラーもヴォルダイブ・ビグマスと同じく二つの特殊能力を持っており、一つは全ての泳炎竜が持つ破壊されると相手プレイヤーのライフポイントにダメージを与える能力。
そしてもう一つの特殊能力は「手札のモンスターカードか、フィールドにあるサポートモンスターを一枚から三枚破壊することで、破壊した枚数分だけ相手のサポートモンスターを破壊する」という敵モンスター除去能力である。
「くらえ! 『|ブレイジングミサイル・バーンスコール《燃え盛る誘導弾、地を焼き焦がす驟雨となれ》』!」
ヴォルダイブ・ザイラーの背中の金属の筒から先程の攻撃の時とは比べ物にならない数の高熱量のエネルギー弾が放たれ、空高くに放たれたエネルギー弾はまるでにわか雨のようにヴォルダイブ・ビグマスの群れに注ぐ。エネルギー弾のにわか雨は群れにいる数体のヴォルダイブ・ビグマスの身体を貫き、その直後にエネルギー弾が落ちた場所から爆発が起こってエネルギー弾の直撃を受けなかったヴォルダイブ・ビグマスを吹き飛ばしていく。
ヴォルダイブ・ザイラーの特殊能力を発動させるために破壊した三枚のモンスターカード、それらは全て泳炎竜のモンスターカードで、地面の爆発は泳炎竜の破壊された時に発動する特殊能力の効果によるものであった。
「……もういないな?」
栄人はヴォルダイブ・ビグマスの群れが全て吹き飛ばされ、生き残りがいないことを確認すると大きく安堵の息を吐いた。
「はぁ……疲れた。まさかあんな大量のヴォルダイブ・ビグマスが出てくるだなんて……。今更だけど何でモンスターカードを手に入れるためにここまで苦労しないといけないんだ?」
前世でのカードゲームはレアカードを手に入れるための苦労はあったものの基本的に気軽に遊べる遊びであった。しかしこの世界ではカードゲームの勝敗が場合によっては個人の人生に大きく作用し、モンスターカード一枚手に入れるために何十万という大金を注ぎ込んだり今日の栄人のように命がけの戦いをしなくてはならず、栄人は改めて自分が異世界に来てしまったのだと実感した。
「とにかく今回は大量の泳炎竜のカードが手に入ったと思って納得するしかないな」
そう呟く栄人の視線の先は二十枚以上のヴォルダイブ・ビグマスのカードが地面に落ちていて、栄人は地面に落ちているカードを全て回収した後、他にも数体のモンスターと戦ってカードを手に入れてから現実世界へと帰ったのであった。




