第12話
「ヴォルダイブ・ビグマスが十匹!? ……いや、違う?」
突然ヴォルダイブ・ビグマスが十体以上現れた光景に栄人が驚いていると、そこから更に十体以上のヴォルダイブ・ビグマスが海から現れる。そして陸に上がった二十体以上のヴォルダイブ・ビグマスは全て、すでに栄人とヴォルダイブ・ザイラーを敵と認識しており彼に向かって突撃してきた。
「……!? 火山が噴火したら出やすくなるけど出すぎだろ? ヴォルダイブ・ザイラー、ブレイジングミサイル!」
栄人が指示を出すとヴォルダイブ・ザイラーは背中に生えた機械の筒から高熱量のエネルギー弾を放ち、ヴォルダイブ・ビグマスの群れに降り注がせる。エネルギー弾は数体のヴォルダイブ・ビグマスに命中すると一撃でその巨体を貫き、エネルギー弾が命中したヴォルダイブ・ザイラーはカードになるのだが、他のヴォルダイブ・ビグマスは仲間が倒されても気にもせずに栄人に向かって走り続ける。
「止まらない……! だったらもう一回……っ!?」
もう一回ヴォルダイブ・ビグマスの群れに攻撃を仕掛けようとした栄人であったが、そこで彼はヴォルダイブ・ザイラーが攻撃できないことに気づく。
「しまった。『エナジー』が切れてる」
カードゲームの「Dragon&Dragoon」では、プレイヤーは自分のターンの開始時に「エナジー」と呼ばれるポイントをまず二ポイント、そこから更にフィールドに出ている自分のモンスターカード一枚につき一ポイント与えられ、プレイヤーはエナジーを消費することでモンスターを戦わせたり特殊能力を使わせることができる。このルールは実際のモンスターの戦闘でも同じで、実際の戦闘ではターン制などはないが、モンスターの召喚者は大体十秒ごとにエナジーを得て、モンスターの攻撃や特殊能力の使用時にエナジーを消費している。
普段の栄人は異世界に来たらまずヴォルダイブ・ザイラー以外のサポートモンスターを召喚して得られるエナジーを増やし、貯めながらモンスターの探索をしていた。しかし今回は泳炎竜のモンスターカードを手に入れるチャンスに浮かれてしまい、ろくに準備もしないまま海岸に来てしまった。
加えて言えば火山の噴火を聞いてすぐにヴォルダイブ・ザイラーを休ませることなく全速力で走らせて来たのもまずかった。モンスターは普通に歩かせたりする分にはエナジーは消費しないのだが、全速力で走らせたりすると若干だがエナジーを消費してしまうのである。
準備不足な上にエナジーを消費しながら海岸に急行してしまった結果が、こちらに向かってくるヴォルダイブ・ビグマスの群れを前に攻撃できないという今の状況で、栄人は自分のうかつさを呪いたくなった。
「大丈夫だ。あの数は厄介だけど、ヴォルダイブ・ビグマスの攻撃くらいだったら何とか耐えられるし、まずはエナジーが貯まるのを待って……あれは!?」
「……!」「………!?」
自分に言い聞かせるように呟き、これからどう戦うか考えている栄人の目の前で、ヴォルダイブ・ビグマスの群れの一匹が突然別のヴォルダイブ・ビグマスの身体に喰らい付いた。それはヴォルダイブ・ビグマスが特殊能力を使うのに必要な行為であった。
群れの仲間の身体に喰らい付いたヴォルダイブ・ビグマスは、そのまま仲間の身体を食い千切るとその大きな口を栄人に向けて開いた。すると次の瞬間、ヴォルダイブ・ビグマスの口から炎が勢い良く噴き出し、栄人とヴォルダイブ・ザイラーは炎に包まれてしまう。
「〜〜〜! やっぱりこれか。せっかく貯まり始めたエナジーが……!」
炎の中で栄人は自分の中でエナジーが減少したのを感じて悔しそうな声を上げる。栄人のエナジーが減少したのは今の炎、ヴォルダイブ・ビグマスの特殊能力が原因であった。
ヴォルダイブ・ビグマスは二つの特殊能力を持っており、その一つが「手札のモンスターカードか、フィールドにある自分のサポートモンスターを一枚破壊することで、相手プレイヤーのエナジーを一ポイント破壊する」というものであった。そしてヴォルダイブ・ビグマスのもう一つの能力は……。
「くっ!?」
ヴォルダイブ・ビグマスが炎を吐いた時、栄人のパワードスーツに付着した何かが爆発し、爆発の衝撃で栄人は思わず声を上げる。パワードスーツに付着した後に爆発したのは、ヴォルダイブ・ビグマスが特殊能力を使う直前に身体を食い千切った仲間の肉片だった。
これがヴォルダイブ・ビグマスの二つ目の特殊能力。「泳炎竜」の名がつくモンスターが共通している特殊能力で、その内容は「他のカードの効果で破壊された場合、相手プレイヤーの『ライフポイント』に二ポイントのダメージを与える」というものである。




