第10話
「ミオちゃん!」
今日の授業が終わり栄人達が学生寮に戻ろうとした時、突然背後からミオを呼ぶ声が聞こえてきた。その声に名前を呼ばれたミオだけでなく栄人とユキも立ち止まって振り返ると、そこには栄人と同じ召龍学園の学生服を着た赤い髪の少女の姿があった。
「ミサキ……?」
(ミサキだって? ……となると彼女が『赤山ミサキ』なのか?)
ミオが自分を呼んだ赤い髪の少女の名前を呟くと、隣でミオの呟きを聞いた栄人は赤い髪の少女のことを思い出す。
ゲームのドラグーン・アカデミーには数人のヒロインが登場し、ヒロインのイベントを進めて好感度を上げていくと特別なカードをもらえたり戦闘で一緒に戦ってくれたりする上、ヒロインの好感度を最高まで上げると個別のエンディングを見ることができた。このヒロイン達のイベントはどれも好評で、ドラグーン・アカデミーを遊んだことのあるプレイヤー達の中には、ドラグーン・アカデミーのことを「カードゲームもできるギャルゲー」と呼ぶ者が多くいた。
そしてそのドラグーン・アカデミーに登場するヒロインの一人が目の前にいる赤い髪の少女、赤山ミサキなのである。
(でもどうして赤山ミサキが俺達に話しかけてくるんだ?)
ゲームのドラグーン・アカデミーでは赤山ミサキは主人公である虹城ヒカルの幼馴染という設定であったため、ゲームと同じようにヒカルと敵対していれば幼馴染であるミサキが栄人達に接触してきてもまだ分かる。だが栄人とヒカルは敵対しているどころかクラスメイトである点を除いて全く接点がなく、クラスも違うミサキが話しかけてくる理由が分からない栄人は、ミサキに話しかけられたミオに事情を聞くことにした。
「知り合いなのか?」
「は、はい……。私の従妹です」
「ミオの親戚だって?」
「……っ!! い、いえ! 親戚は親戚なのですけど、ミサキの家族は『あの人』とは無関係ですから!」
「えっ? ああ、そうなのか……」
ミオに質問をした栄人は彼女の口から自分とミサキが従妹だと聞いて驚き、栄人の反応を見たミオは慌てて彼に訴える。しかし栄人が驚いているのはミオが考えているものとは異なっていた。
(ミオとミサキが親戚関係? ゲームではそんな情報なかったぞ?)
前世でドラグーン・アカデミーを遊んでいた栄人はゲームに登場するヒロイン全てのイベントを見ており、その中には当然赤山ミサキのイベントも含まれていた。しかし赤山ミサキのイベントに紅海ミオが登場することはなく、赤山ミサキから彼女の名前が出ることも一度もなかった。
「昨日の入学式で見た時にもしかしてって思ったけど、やっぱりミオちゃんだったんだ!」
意外な事実に驚く栄人を他所にミサキはミオに近づいて話しかける。
「中学校くらいから急に連絡が取れなくなったと思ったら、一体どうしてメイドさんの格好をしてここにいるの?」
「こ、これはその……」
ミサキの質問にミオは言い辛そうに視線を逸らして栄人の方を見てしまい、ミオの視線に気づいたミサキは栄人に視線を向ける。
「……! ちょっと君! ミオちゃんに何をしたの!?」
今度は栄人に食ってかかるミサキの手にはいつの間にか一枚のカードが握られており、それを見た栄人は驚きで目を見開く。
(な……!? ミサキの奴、まさかここでモンスターを呼ぶつもりか?)
「一体どういうことか説明……!?」
「は〜い。そこまで、そこまで」
ミサキが栄人に近づこうとしたその時、ミサキと栄人の間にユキが割って入ってミサキを止めた。
「な、何? 貴女?」
「初めまして。私の名前は白銀ユキと言います。そちらの紅海ミオちゃんと一緒に栄人様のメイドをやらせてもらってます。よろしゅうに」
「あ、はい? え、えと赤山ミサキです……?」
方言の入った言葉で自己紹介をするユキに調子を崩されたミサキが自分も自己紹介をすると、それを聞いたユキは一つ頷いてからミサキに話しかける。
「赤山ミサキちゃん、か……。良い名前ですなぁ? それはともかく、栄人様に何かご用事があるんでしたら、まずウチに話を通してくれません?」
笑顔を浮かべてミサキに話しかけるユキだったがその目は笑っておらず、気がつけばユキの手にも恐らくモンスターを召喚するカードだと思われる一枚のカードが握られていた。
「……うっ!?」
「ユキさん、もう止めてください! ミサキも今日の所は帰って!」
ユキから感じる迫力にミサキが気押されると、そこにミオが入ってきてユキを止めた後でミサキに帰るように言う。
「み、ミオちゃん? でも……?」
「いいから! 私は大丈夫だから! この格好のことも後でちゃんと説明するから、今日は帰って!」
「う、うん……」
まだ聞きたいことがあるミサキだったが、必死にミオに帰るように言われたため、不安そうな顔をしながらも今日のところは言われた通り学生寮に帰ることにしたらしい。それでもやはりミオのことが心配なのか、時折こちらを振り返ってくるミサキの姿を見て、栄人もまた不安を感じていた。
(せっかく主人公のヒカルに関わらないようにしていたのに、今度はヒロインの一人が近づいて来るだなんて……。これがきっかけになってヒカルと戦うことになんてならないよな?)




