99話
アルマはその殆どを馬車の上で過ごしていた。常に監視がついて逃げ出す隙もなく、数日を過ごした。そして、久々に処刑されそうになった時以来の帝都に戻ってきた。
「さあ嬢ちゃん、あんたをお呼びしたお偉いさんとのご対面だ」
そう言われつつも後ろ手に縛られて、禿げ頭の大男に無理やり商人ギルドの本部へと連れていかれる。そこにある一室、まるで貴族の様に装飾で飾り付けられた部屋に連れて来されると、そこの執政机に、よく肥えた、絵に描いたような悪徳商人の様な男がふんぞり返っていた。どうやら彼がアルマを連れてくるように命令したギルドの支配人のようだ。
「よくぞおいでになりましたな酒の魔女さん。さ、そこにお座りください」
嫌らしくニヤッとした笑みを向けて、ポツンと置かれた椅子に座らせられる。
「私は商人ギルドのギルド長ガーメット・オゼーゼと申します。以後お見知りおきを」
口調と表情は穏やかだが、その眼は笑っていない事が彼女には感じられた。決して油断ならない人物だと確信させる。
「実はあんたを呼んだのは他でもない。お互いに利益のあるお仕事を一緒にして欲しいからなのですよ」
「その一緒に仕事をしたい相手を、無理に連れてきて拘束するのが商人ギルドのやり方なんですか?」
アルマは精一杯敵意を向けて言い返す。オゼーゼは目で部下の大男に指示を出して、アルマの縄を解かせる。
「部下の無礼をお許し願いましょうか。もし、誰かに見つかると貴方の命が危ないので……特に騎士や衛兵にばれたらまずいでしょう?」
アルマが帝国では指名手配されていることも、商人ギルドは知っている。エルフの国にいた事もすぐに嗅ぎつけたくらいだ。大体の情報は知られているのだろう。
「我々は貴方を守りたいんです。だからこうしてこっそりとギルドに連れて来た。その努力を感じて欲しいですね」
恩着せがましい口ぶりだ。これならエルフたちの嫌みの方がマシと思えるくらい。だが、状況的に相手の方がかなり有利なのだ。そうやって他の手段を奪って自分の思い通りにさせるのが、この男のやり口なのだろう。
「率直に聞きます。私に何をさせるつもりなんですか?」
「流石話が早い! 私たちの願いはただ一つ。この厳しい帝国で、お酒の素晴らしさをみんなに伝えたいんです」
オゼーゼは立ちあがると、アルマの方へ近づいてくる。
「一緒に来てください。案内したいお部屋があるんです」
言われた通り、アルマはオゼーゼに付いて行く。その後ろには大男が続いてる。決してこちらを信用してない事は一目瞭然だった。




