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98話

 また全てが水の泡だ。人生の殆どを帝国の為に費やし、少しでもその忠義を示したかった。それをあの酒の魔女に邪魔された。恐らく、自分は何らかの罰を受ける事になる。それならまだいい。だが、残された兵士たちはどうなる? 士気も落ち、消耗した今の状態で再び戦場に駆り出されたら、例え前線を押し戻すだけでも被害は相当大きくなる。

 元老院に頼み込まなければいけない。多分聞き届けられないだろうがそれしか方法はなかった。

「デュオン殿」

 部下の騎士が来た。その表情は非常に困惑していた。

「どうした。何があった?」

「商人ギルドの使いを名乗る男と少年の二人がデュオン殿に会いたいと申しています」

「商人ギルドだと?」

 今回の撤退の決定的な要因となった火付け道具はギルドに輸送を依頼してた物だ。それを利用されたのは火を使う計画が、エルフたちにばれていたからだとデュオンは推測していた。どこでその計画が漏れていたか、その可能性は商人ギルドの連中がエルフに伝えた可能性が高い。ドワーフの国で魔女を見失った時も、奴らが裏で糸を引いていたのではないかと考えていた。

「このタイミングで奴らが何故?」

「分かりません。ただ……」

「何だ?」

「少年が私たちの目の前で、手にしていた葡萄の汁を葡萄酒に変えて見せて……」

 部下の話を聞くや否やデュオンはその場を飛び出した。兵士たちが集まってる向こうに、その商人ギルドの使い二人が待っていた。身体の中から溢れそうな衝動を必死に抑えながら、デュオンは少年の前に立つ。

「僕はミトソ。あんたたち帝国が探している密造酒の本当の造り手だ」

 デュオンはミトソを見下ろしたまま、険しい顔でにらみつけている。今にも鞘から剣を抜いて振りかざさんばかりに手が震えている。

「魔女なんていない。あんたが目の敵にしていたのは何の力もないただの女性だ。ただ、僕の身代わりに汚名を着せられただけの」

 少年の顔には見覚えがあった。最初の帝都の騒ぎの時に、魔女と一緒にいたのはこの少年だったのだ。あの時の帝都中が酩酊したのも彼の力だったのか。魔女に対する、いや酒に対する偏見が最初から全て間違った考えに向かわせていたのだ。

「今になってどうして俺の前に姿を見せた?」

「商人ギルドに彼女が攫われた。それも僕の力のせいで、隣の男がそれを教えてくれた」

 商人ギルドなら確かにこの力を悪用するだろう。金のためなら何でもする連中だ。

「一緒に帝都に来て欲しい。商人ギルドから彼女を助けるため。その後でなら、ギルドの連中と共に僕の身柄を差し出そう」

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