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96話 帝国の思惑5

「エルフ共の奇襲を受けただと!」

 自宅のベッドの上で、ジャバー・シャット―は怒りの声を上げた。続けて何かを言う前に、言葉よりも咳が出てそれ以上は言葉を出せなかった。しばらくせき込み、ようやく落ち着きを取り戻して報告した使用人に尋ねる。

「それで被害は?」

「前線基地を捨てる事になりましたが、人的被害は少ないという事です」

「クソッ! 兵士などいくら死のうが構わん! せっかくエルフの領土に侵入できたのに、簡単に退きおって!」

 ぜえぜえと苦しそうに息をする。最近はシャット―だけではなく、ブランディスもグレーンも体調を崩している。帝国の拡大を推進している主要な3人がこうも皆揃って体調を崩す事がおかしい。そのせいで、帝国内の力関係が乱れ始めている。

「帝国は早く力を付けねばならん。そうしなければ、今に内部から崩壊してしまう……皇帝さえいれば……!」

 再び咳を繰り返す。これ程体調が優れないのは年齢のせいだとばかり思っていた。しかし、医者に診てもらっても容体は悪くなる一方だ。ついには集まって相談することも出来なくなっていた。

「落ち着いてください。今に医者を呼んできますから……」

「ヤブ医者が何になる! それより葡萄酒を持ってこい! 今の私には酒だけが薬だ!」

 医者でさえも彼らの体調不良の原因が分からない。はんばやけくそ気味にシャット―が葡萄酒を要求する。

「我々には時間がない。西のエルフ、南の蛮人、帝国内部には商人ギルドどもと敵が多すぎる……」

 現状、シャット―含む数名のブランドハウスが元老院となって帝国の運営を担っている。だが、その元老院でも帝国の方向性をまとめる事が出来ず、意見が分かれている。それならば、皇帝は何をしているのか?

「とにかく、指揮官共に伝えろ。このまま帝国の恥じを晒し続けてはならん。すぐにまた前線を戻し、エルフの領土を奪わなければ罰を与えると!」

 これも帝国内で魔女が現れたせいだ。きっとこの病も、魔女の呪いか何かだとシャット―は被害妄想を募らせる。

言い切って、深く呼吸をする。そして、まだ葡萄酒が手元に届いてない事に気が付いた。

「早く葡萄酒も持ってくるんだ。この際どこの奴でもいい! 早くしろ!」

 使用人に罵声を浴びせて持ってこさせる。帝国内で酒を飲める地位にいるという特権意識だけが、今のシャット―を支えていた。帝国の内政を担う選ばれた貴族、ブランドハウスとして許された特権。だからこそ、今の地位を守るためにも、必死になっていた。階級制度こそが帝国を支える大事な要因だ。しかし、持ち直すには残された時間の猶予はもはやほとんど残されていなかった。

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