95話
暗闇の中を足掻こうとするが、布か何かに全身包まれてその上から押さえつけられて全くびくともしない。声を出して助けを呼ぶが、誰にも届かずただ時間だけが過ぎた。時間の感覚も分からないが、急に解放されたと思った瞬間、地面に叩きつけられたみたいで、全身に痛みが走る。
「よし行け!」
ロンの物ではない男の声が聞こえ、地面が動く感覚がする。荷馬車か何かに乗っているようだ。必死にもがいてようやくまとわりついていた幕から外に出るが、目の前には巨漢のいかにも悪党という凶悪な人相の男がこちらを睨みつけていた。
「大きな声を出さない方がいいぜお嬢ちゃん。手荒なマネって奴をされたくなかったらな」
「あんたたちは何者? ロンはどうしたの?」
男の脇から忍び笑いが聞こえてきた。どうやら相手は一人じゃないようだ。目の前に一人、笑い声の主、馬車の運転手の少なくとも3人はいるだろう。
「俺たちは案内人だ。あんたに頼みたいお仕事があるお方がいて、その人の下にあんたを連れてくるように頼まれたんだ酒の魔女さん」
大男が身体をずらすと、そこには坊主頭の男が荷馬車に寄りかかっていた。狡猾そうな表情で品定めする様にアルマを見ながら説明する。
「ロンは、彼はどうしたの? あんたたちの仲間じゃないの?」
あざ笑う様に坊主頭の男が笑った。
「あいつは、今さっきクビになった。せっかくのお使いすら満足にできないような奴だ。商人ギルドはちゃんと仕事が出来ない奴には容赦しない」
「あんたたちも商人ギルドの人間って事?」
元々、利益の為に敵国のエルフと取引したりするような連中だ。人さらいくらいの事は平気でするのだろう。しかし、自分が狙われるとは思っても見なかった。
「ちゃんと仕事のできる人間だ。だから嬢ちゃんが大人しく言う事を聞けば、大切に扱う。仕事だからな。俺たちの言う通り、素直についてくれれば何も問題はない。普段通り、しかも安全に過ごす事が出来る」
如何にも悪党の戯言だ。逆らったら例えさらったアルマでも容赦はしないという脅迫だ。
「これは嬢ちゃんにとっても人生のチャンスだ。間違いなく大金持ちになれる。こんな森の辺鄙な土地で。耳の長い気難しい連中相手に媚びへつらう必要なんかない」
恐らく、王女に彼女が雇われるのを危惧して強硬手段に出たという所だろう。ロンはアルマを呼び出すための囮に使われたのだ。彼らの言う事は何一つ信用できない、悪魔の誘惑と同じだ。
「少しの間だが、仲良くしようぜ。旅は道連れってね」
男の言葉に返事はしなかった。それよりも彼女は心の中でロンの無事を祈った。




