93話
「残りの分は樽に詰めて大切に保管して下さい。数年経てば熟成されてきっと違った感想をいただけると思います」
「いいわ、その時は貴方と一緒にこのお酒を飲みたいわね。それまでの楽しみにしておくわ」
アルマは深々と王女にお辞儀をした。ミトソもそれに続く。こうして、蒸留酒の試飲は終わり、二人は王女の屋敷の客間に戻っていた。
「本当に良かったの? せっかく平穏に酒を飲める生活が出来たかもしれないのに……」
「ええ、でも後悔はしてないわ。自分で決めた事だから。私はもっと、この世界のお酒を知りたいの。この世界でしか飲めないような未知のお酒、それを探してみたいの」
それがアルマの選んだ道だった。まだ見ぬ知られざる銘酒を探す。それが彼女の目標となった。
「ミトソも酒の神なんだから分かるでしょう? この土地のお酒は何があるのか、他とどう違うのか、そういう興味が沸く事」
「……そうだね。新しいお酒との出会いの喜び、久しく忘れていたよ。まさかそれを君から教わるなんて思ってもみなかった」
ミトソもアルマの言葉で、彼女の気持ちが本物だと感じたようだ。
「帝国に戻ったら、今度は南方に向かってみようか。蒸留酒も出来るようになったし、きっと美味しいお酒が造れるよ」
話をしていると、屋敷の使用人がやってきた。
「アルマ様、あなた宛てに先ほど渡してくれと頼まれたものが」
「私に?」
それは手紙で、誰からの物だと思って差出人の名前を見るとロンの名前が書かれていた。
「ドワーフの国でお世話になったロンさんからだわ!」
「何であいつが? 僕たちがここにいる事を知っているんだ?」
ミトソが表情を変える。アルマが手紙を読んでみると、商人ギルドの使いでエルフの国に来ていると書いてあった。直接見に行きはしなかったものの、王女に蒸留酒を献上した事を賞賛する旨が書かれていた。
「それで、時間が空いたから是非直接会って話がしたいって書いてあるわ」
「却下。どう考えても怪しい。商人ギルドの使いで来てるだって? またろくでもない事に関わってるに違いないよ」
即刻却下されたが、アルマには数少ないこの世界で友好的な知り合いだ。あまり無下に断るのも忍びなかった。
「商人ギルドとは無関係に個人的な理由で会いたいだけって書いてあるし、挨拶くらいさせてくれない?」
「絶対何か裏がある。僕は忠告したよ。それでも会うと言うなら、止めはしないから」
再び不機嫌になってミトソは口を閉じた。アルマには無理を言ってお世話になった記憶しかなかったし、ドワーフの国では別れの挨拶も出来なかった。せめて少しだけでも様子を見たかった。
「じゃあ私一人で会いに行くわ。屋敷のすぐ外で会いたいって言ってるし、そんな何かするつもりないはずよ」




