92話
「これが貴方たちの言う王様のお酒ね」
騒がしかった見物人たちも息を飲むように静かになっている。アマラ王女の下す評価を、誰もが見守っている。
「少し口に含んだだけで口の中が焼ける様な感覚、相当酒気が凝縮されてるようね」
蒸留酒のアルコール度数は高い。初めて飲む度数の高いお酒は王女の口に合ったのか。
「そして、元の葡萄酒よりもさらにかぐわしい香り。飲んだ瞬間、酒気と共に口の中に広がってきたわ」
王女が穏やかな笑みをアルマに向けた。
「王様のお酒、確かに堪能したわ。生きてきてこれ程のお酒は他になかったわ。素晴らしい」
わっと周りから歓声が上がった。エルフの王女が認めた王様のお酒。これはもう間違いなく最高の評価だろう。
「このお酒を今後も貴方は私に造ってくれるのかしら?」
本題はここからだ。道を選ぶ決断。彼女の下で醸造家として働くか、ミトソと共に再び流浪の道に戻るか。アルマが選んだ道は……。
「願ってもないお誘いの言葉、まことにありがとうございます王女様。ですが、私はミトソと共に行こうと思っております」
それを聞いて王女とミトソは驚いていた。彼女は王女の醸造家の道を蹴って、ミトソと流浪の生活を選んだ。
「そう、貴方が決めた事ならいいですが、それはどうして? エルフの王女の下で働くより大事な事なの?」
「そうだよ。どう考えてもそっちの方がいいはずなのに……!」
珍しく意見があった事にミトソは少し恥ずかしそうに口を閉じた。
「今お飲みになったアルマニャックは、実はまだ完成ではないのです。樽に入れて数年寝かせる事でより風味が増して良いお酒になります」
「ほう、これよりもさらに美味しくなると」
「その数年があれば我々のような人間はさらに様々なお酒に巡り合う事が出来ます。そして、醸造の腕も上がる事でしょう」
樽での熟成には数年、時には10年以上かける事がある。そうする事で王様のお酒はより気高く、高貴なお酒になるのだ。
「私はまだ未熟。もっと様々なお酒に巡り合って、さらに良いお酒を醸造できるようになりたいのです。その時に今日のお酒を飲んで、どう変わったか楽しみにして欲しいのです」
アルマはまだ見ぬ未知のお酒と世界を知りたかった。だからここで、一生を終えるのはまだ早いと思ったのだ。ミトソと共に見聞を広める道。それが彼女の決めた決断だった。
「そこのミトソもかなりの呑兵衛だったけれど、貴方もたいした呑兵衛、酒好きなのね。ふふふ」
あきれたように王女は笑った。アルマもにこりと微笑んだ。
「ええ、私とってもお酒が好きな呑兵衛ですの」




