88話
そうしてエルフの町の様々な場所を見て回った。錬金術師のアブールの家の様に、様々な薬草や薬を煎じている薬屋。同じ木材でも用途によって異なる加工を行う木工店。緻密で豪華な刺繍を施す衣装店。帝国では馴染みのない職種の人たちが、町には普通に存在していた。
「こちらは教会です。王女とその祖先である戦の神を奉っております」
染色されたステンドグラスに照らされた王女の大きな木像が鎮座していた。町や地域によって異なる神々や領主自身を崇めるのがエルフたちの信仰らしかった。
「はぁ、なんて楽しいんでしょう! 帝国じゃ見た事のない景色ばかりで、これならいつまでいても飽きないわ!」
帝国にいた頃、特に修道院では清貧を貴ぶので質素で素朴な物に馴染みの深いアルマにとっては、エルフ独特の文化はとても新鮮な物だった。ドワーフの国も独特ではあったが無骨で質実剛健な物が多くて、花々をモチーフにした服飾や、調合した薬草で作られたお香など、彼女の興味を引く物がエルフの国には多かった。
「そういえば、こうして堂々と町中を歩けるのも久しぶりだったっけ」
ミトソの言う通り、帝国では魔女として指名手配されてこそこそと振舞う必要があった。エルフの国では最初こそ彼らの為に働かされたが、こうして町中を自由に歩けるのが何よりも嬉しかった。
「本当随分と嬉しそうだね」
「今までの苦労が報われた感じよ。これならお酒造りにも身が入るわ!」
蒸留器が完成したら、王女にアルマニャックを造る約束をしてたが、自分の作るお酒が上流階級の人々の舌に合うか、王女がどんな反応をするかとても楽しみだった。一方で、ミトソの方は何か思う所があるのか、町を見回ってから少し考え事をしているようだ。
「それでは屋敷にお戻りください。そろそろオリザ殿が帰ってくる王女を迎えるための準備を行うらしいので」
護衛からそう伝えられて二人は屋敷へ戻ることになった。道中その後の予定を教えてもらうが、休みが数分あるかないかというくらいみっちりスケジュールが詰まってる。来賓でも容赦なく参加せざるを得ないのが、様式や儀礼にこだわるエルフの文化だ。
その間も、ミトソは別の事を考えているみたいで護衛の話は全然耳に入ってないようだった。
「ミトソ、さっきからどうしたの?」
アルマが尋ねる。
「いや、ちょっとね。アルマはここでの生活が楽しそうみたいだからさ」
それだけ言ってまた黙ってしまった。確かにマナーや礼儀など細かくて辟易することもあるが、自然に囲まれ芸術的な風景を見せるエルフの国は、アルマには魅力敵にうつっていた。ただ、それがミトソには気になっている事を彼女は不思議に思った。




