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87話

 その町の一角にあるエルフの工房は他の建造物よりも大きく、薄煙が屋根の隙間からもくもくと上がっていた。

「火を扱う職業は危険を伴うので、王女や貴族から許可を得た職人しか使う事が出来ないのですよ」

 護衛のエルフがそう解説する。エルフの土地は森が殆どのため、火を使うような職業は確かに危険なのだろう。だが、それ故に彼らの腕は確かだと教えてくれた。工場自体も、燻してあるのか他の建物とは違う特殊な木材が使われている。きっと燃えにくい性質なのだろう。

 その工房の中に、大きな寸胴のタンクに長い三角帽子をかぶせた様なヘンテコな形のガラス製品がある。これこそが私たちの頼んだ大型の蒸留器のパーツの一部だ。

「エルフの職人が手掛けるガラス製品は丈夫で、これだけ大きくても多少の衝撃や振動なんかではびくともしません。帝国ではこれ程の物は作れないでしょう」

 護衛のエルフはさも自分が造ったかのように自慢するように解説する。しかし、確かに繊細なガラス製でこれだけ大きな物は帝国ではそうそう見かける事は出来ない。

「注文にはありませんでしたが、よろしければ削って装飾を付ける事も可能ですがいかがです?」

「ありがたいけど遠慮しておくね。僕らは実用的であれば外見はこだわらないから」

 削って外見を整える作業も入れたら完成にもっと時間がかかるから、ミトソは遠慮したのだろう。光が反射してキラキラと光るだけでも十分美しい。ちょっと見たさもあるが、余計な手間をかけさせるのもアルマには気が引けた。

 後は気化させた液体を送り込んで貯めた水で冷やす冷却装置が必要になるが、内部で冷たい水の中をくぐらせる何重もの巻いた管を通す必要があるのだが、その管を造るのも帝国の技術では難しい。でも、エルフの技術を使えばそれももうすぐ出来るという。

「完成したら、それで王女にぴったりの蒸留酒を造るから頼んだよ」

「勿論です。その為に職人たちが細心の注意を払って造っているのですから」

 着々と完成が迫る蒸留器を見て、アルマも楽しみになった。今度からは蒸留酒も造ることができる。元々は飲む側だったが、造る側になってから少しお酒の質にこだわる様になった気がする。本当は酒造りには前世の世界でも特別な許可が必要なので、密造業者であることには変わりないが、飲めればいいだけじゃなくてそうしたこだわりが自然と生まれるのだから人間は不思議な物だ。

「ではそろそろ他の場所へ行きましょうか。我々エルフの町は人間には興味深い物ばかりでしょうから」

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