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86話

 ほんの数日をエルフの国で過ごした二人だったが、どうにかマナーやしきたりにもある程度は慣れてきて、王女から注意されることも少なくなってきた。

「ああやだやだ。相変わらずエルフの国は息苦しくて敵わないよ」

「そう? 私はやっと言葉にも慣れてきたわ」

「例え醸造が違法だとしても、それ以外はのんびりとした帝国の方が僕には性に合ってるよ。あそこは相手の言動一つ一つまで睨む国じゃなかったからね。隣同士でも口を突っ込んでこないのがね」

 それは周りから敬遠されていただけじゃないかと思ったが、アルマは口には出さなかった。

「そう言えばさっき使用人の人が教えてくれたんだけど、町の工房で頼んでいた蒸留器が完成したそうよ!」

 エルフの国に来た目的である大型の蒸留器が、ついに完成したという。アルマは早く見たくてうずうずしていた。

「それはいい事を聞いた。確認したら荷馬車に積んでさっさと出ていこうか。今なら帝国の軍もいなくて、戻ることは容易いはずだよ」

「流石がにそれはあんまりじゃない? 王女にアルマニャックを飲ませる約束もしてたじゃない!」

「分かってるって! 使う果物も王女が用意してくれるみたいだし、ちゃんと約束通りそれを献上するさ」

 やはりまだ王女との折り合いがついていない事で居心地が悪いのか、ミトソはとても落ち着きがなかった。元々、適当な性格も相まってエルフの儀礼的な風習には馴染めてないのかもしれない。

「じゃあ二人で確認しに町に出てみましょう。そう言えば、まだ屋敷の敷地から出てなくて、エルフの町をちゃんと見てなかったわよね」

 王女は別件で屋敷を離れていて、夫の一人であるオリザが留守を預かっていた。本来なら来賓となる貴族のエルフが勝手に出歩くのはいけない事らしいが、自分たちは人間で身分も本当は平民であるため、特別に許可が下りた。しかし、護衛を常に側にいさせる事が条件だった。本来なら敵である人間が町に姿を見せるのは良くない事だが、王女の来賓として既に町では知られているので監視を付ける事を条件ならば外に出てもいいという結論に至った。それでも久しぶりに外に出られて二人は嬉しかった。

 二人はそうしてエルフの町へと出た。町全体の大きさは帝国の都市とそう変わらないが、その土地の半分が王女の屋敷とその敷地となっているため、居住しているエルフたちの建物は帝国の町よりも密集していて、こじんまりとした雰囲気だった。

 道には街路樹や花壇で飾り立てられており、ミトソは薄暗いと言っていたが、町全体を覆う木々から入る木漏れ日が、町を照らすと本当におとぎ話やファンタジーの世界にいると感じられてアルマはとても嬉しかった。

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