83話
「とっさの判断で帝国が私たちの領地を焼き討ちにするのを阻止して、逆に帝国軍を追い払うのに利用するなんて気が利くじゃない」
「あれは別に、そんなつもりではなく……」
恐縮しながらアルマは答える。まさか、本当は被害を抑えるためにやったのだと言えば、エルフたちにとって裏切りと同じ行為をしたようなものだ。とても、本当のことは言えなかった。
「あら、そんな縮こまって駄目よ。王女の私が感謝しているのだから、もっと胸を張って堂々としなさい」
そんな風にたしなめられてしまった。一応、褒めてくれているらしいがエルフの考え方は未だよく分からない。
「えと、王女だって凄いじゃないですか。女性なのに前線に出て指揮官として戦場に出てるなんて……」
「それは当然よ。私の祖先には戦の神がいるもの。それなのに戦争から逃げたなんて知られたら、後の世で同族にすら馬鹿にされるわ」
そう言えば、エルフは神々と夫婦になる文化だった。でも戦の神は帝国の主神ではなかっただろうか?
「戦の神ですか?」
「そうよ、だから一番に帝国と戦わなければならないの。帝国も軍神とやらを奉っているそうだけど、神を騙る悪魔か何かでしょうね。神の血を引く私が言うんだから」
まさかミトソの息子が帝国の主神だと聞いたら、絶対ややこしい事になるからアルマは固く口にしないと決意した。
「あら、貴方全然お茶を飲んでないじゃない。駄目よせっかくの王族だけが飲めるお茶なのだから。帝国の、ましてや平民が飲めるものじゃないのよ?」
「え、あ、はいいただきます」
「でも一杯だけよ。二杯目からは違うお茶にするのよ。材料に希少な毒キノコを使ってるんだから」
アマラ王女の言葉に思わず口に含んだお茶を吐き出した。毒キノコを使ったお茶なんてエルフはなんて物を飲むのか。
「吐き出すなんて無作法よ。毒キノコと言っても一かけらしか使ってないから大丈夫よ。そのキノコはとても香り高くて刺激的な味がするのよ。それ以上口にすると、身体が麻痺して一日動けなくなるけれど」
王女は平然と味わって飲んでいる。エルフの文化は人間と全く異なっていて、とても理解しがたい物だった。
「大体あなたたちが飲むお酒も毒の様な物でしょう。沢山摂取するとふらふらになって、最終的には倒れてしまう。そんな物を好き好んで飲むなんて、私からしたらとても理解しがたいわ」
確かにそう言われると、お酒も毒キノコが使われるこのお茶も似たようなものかもしれない。知らない者からしたらどちらも大して変わらない危険な飲み物と思うだろう。
「薬も過ぎれば毒となる。そういう言葉は帝国にもあるでしょう? それだけの事なのにわざわざ法で作ったり飲む事を禁じるなんて、考えた者はきっと誰も信じてないのよ」
物が悪いのではなく、知識や加減を知らずに摂取する人が悪いと、王女は言いたいのだろう。ようやく彼女の言っている事が理解できたような気がした。




