82話
会食はつつがなく終わった。たった1時間ほどしか経ってないはずだが、アルマには何時間も続いたようなどっと疲れる苦行だった。側には常にマナーを教えてくれる使用人が着いて、何かを食べようとする度に手にした食器の使い方、口に入れるタイミング、飲み物を飲む時の角度など細かく注意された。お陰で食事中に交わされた会話の内容も殆ど頭に入ってない。しかし、話をしていたのは王女と彼女の夫たちが主で、恐らく帝国との戦争の結果や今後の動向について、彼らの仕事についての話のようで自分たちには殆ど関係のないものだった。もっとも、関係あったところでアルマには会話をする余裕がなかったが。
会食が終わった後、客間に通されてようやく解放されたとミトソが腕を伸ばした。
「ふう、毎回こんなのに付き合わされちゃあせっかくのお酒も不味くなっちゃうよ。だからエルフの国にはあまり長居したくないんだ」
アルマも設けられていた豪華なソファにもたれかかる。エルフたちはこんな堅苦しい生活を毎日しているのか。彼の言う事もわかる気がした。ようやくゆっくりできると思っていると、扉をノックする音が聞こえた。
「お二方、そちらにいるのでしょう。開けて下さい」
その声はアマラ王女の物だ。無視するわけにもいかずミトソが対応する。
「どうかしたの女王陛下。僕たちは色々あって疲れてるんだけど?」
「まだ日も高いのに? 今は貴方に用はないわ。彼女と話がしたいの」
王女の用事はアルマの方にあるという。全く身に覚えがないが、何か王女の癇に障る様な事をしたのか不安になった。
「ちょっと、それってどういう事さ。彼女は僕の連れだよ? それを無視して貰っちゃ……」
「貴方はハチミツ酒の管理係と話してきなさい。エルフの上流階級しか飲めない特別な物を試飲してもらう様に伝えてあるから」
「それじゃあ、後は二人だけでごゆっくり」
そう言ってミトソは足早に行ってしまった。唯一の頼りなのにあっさり見限られた。これで王女と二人っきりになってしまった。
「そんな緊張しないで。そこに座って、私と談笑しましょう。女性同士の他愛もない日常会話よ」
そう言って、王女と向かい合って客間の席に座る。そそくさとやってきた使用人がお茶を淹れて二人の前に置く。
「あの、私なにか不味い事でもしましたか……?」
「別に、ただ今回の戦争で女性の貴方が多大な貢献をしたと夫のオリザから聞いたもので、それで王女である私自らが私的にお話しに来たの。光栄に思いなさい」
高圧的だが、一応王女自身が直接労いに来てくれたようだ。しかし、身分的には平民の、しかも帝国の人間である彼女からしたらエルフの王女と対面で会話するなんて、とても恐れ多い物だった。




