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8話

「うわぁ、お姉さん想像以上に呑兵衛なんだね」

 修道院を追放された経緯を話すと、呆れたように少年が言う。

「それに、前世も酒が原因で死んだようなものなのに、それでも懲りてないの?」

 前世の記憶があるという話も少年はあっさりと受け入れてくれた。というより、あくまで麦汁が出来るまでの暇つぶしの与太話程度に考えているのだろう。そっちの方が、わたしとしても

過ぎた事なので気にしてもらわない方がありがたい。

「お酒に罪はないわ。それもわたしが飲める限界を見誤っただけ。それよりも大事なのは今、造ってるお酒がちゃんと出来るかの方が大切よ」

「そろそろ頃合い的にも出来てると思うよ」

 鍋の蓋を開けると、香ばしい麦と甘い香りが鼻をくすぐる。やや黄色っぽい濁った色は麦から酵素が染み出た証拠だ。麦の栄養が糖分と共に水に溶け込んだ麦汁の完成だ。

「うん、ちゃんと出来ているね。じゃあこれを別の容器に移して温める」

 もう一つの深鍋を用意し、その上に絹をかぶせる。そこへ麦汁を流し込むと、濾されて麦が取り除かれる。こうして分けた麦汁だけの入った鍋を地下室の一角にある竈の上に置き、少年が馴れた手つきで火打石を叩き火種に火をつける。火種は徐々に大きくなっていき、地下室を照らす程明るい大きな火となった。

 徐々に麦汁が温まっていき、ぐつぐつと煮立ち始める。こうして沸騰させて水分を飛ばし、麦汁を濃縮させる。

「ふう、流石に火を見てると身体も熱で暑くなるね」

「私に交代しないの?」

「駄目駄目。こういうのはプロの役目なの。お姉さんはお姉さんの役目があるの」

 確かに私は修道院で葡萄酒醸造の手伝いや前世で聞きかじった知識しかない。本業にしているプロの職人たちと比べたら素人と何ら変わらない。主に鍋に水を汲んできたりそういう力仕事が私の役目らしい。

「これくらいで十分かな。火を消して、熱が冷めたら樽に入れるよ」

 樽に入れたら濃縮された麦汁を発酵させ、糖を二酸化炭素とアルコールへと分解させる。そうなったら麦酒、ビールの完成だ。

「でも、ここから麦酒になるには酵母が必要なんじゃない?」

 ここからはアルコールを作り出す重要な材料、酵母(イースト)が必要となってくる。空気中にも僅かに存在することはするが、管理が杜撰だと修道院の葡萄酒の様に、他の菌の影響を受けて酸っぱくなってしまう。最悪腐ってしまう。

「だからお姉さんの役目があるんだよ。お姉さん、パン持ってるでしょ?」

「持ってるけど……まさかそれを酵母に!?」

 確かにパンが膨らむのも酵母の影響だ。古くなったパンを水に浸けるだけでビールの様な物が出来ると聞いたことがある。しかし、持っているパンは唯一わたしが持っている貴重な食糧だ。

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