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77話

 デュオンは混乱して逃げ回る兵士の一人を掴み、その場に殴り倒した。

「いい加減落ち着け貴様たち! 重装兵は盾を取れ! まだ攻撃は始まったばかりだ。迎撃しろ!」

 声を張り上げて兵士たちを落ち着かせる。まだ兵士たちの酔いは醒めていないが、それでも戦えるだけの意識は戻ってきただろう。不利な状況だが、数はそれほど減っていない。まだ立て直せるはずだとデュオンは思った。

 この僅かな間に魔女がいないか、野営地を見渡す。エルフ共と森にいるのか、この襲撃に魔女も本人来ているはずだとデュオンは直感的に感じていた。

「団長殿、兵士持ち直しました!」

 隊長が一人来て伝える。まだ、やれる。兵士たちもようやく酔いが醒めて来ただろう。劣勢な事には変わりないが、ここから挽回できるはずだ。

「よし、各兵迎撃……!」

 隊列から離れた場所に一人だけ兵がいる。手にはたいまつを持って、こちらの様子を窺うように立っている。兜で顔は見えない。だが、もしかすると……兵士が持っていた松明を投げ捨てる。すると、地面に落ちた松明の火から、地を這うように火が伸びる。

「うわ! 火事だ!」

「野営地に火がつけられたぞ!」

 持ち直したと思った兵たちに驚きと動揺が、火と共に伝播する。隊列も総崩れとなり、これでは迎撃どころではなかった。

「まさか、あいつ……!」

 こちらの攻撃に使う予定だった火付け道具を使ったのか。火の回りが早い。恐らく兵たちが酔ってる間に油を撒いておいたのだろう。味方の兵がそんな事をするはずがない。だとすれば、あの兵士は……デュオンの心を読んだように、火を放った兵士が兜を脱いだ。まだうら若い女性の顔が現れた。その顔は良く知っている。かつて処刑しようとして、謎の混乱と共に逃げおおせたあの魔女の顔だ。デュオンは忘れていなかった。

「魔女おおおおお!!」

 魔女はふいと振り返って、森の中へ消えて行った。デュオンは今すぐ追いかけて、この手で魔女の首を斬り落としてやりたかった。しかし、今はそれどころではない。怒りをぐっとこらえて叫ぶ。

「撤退する! 早くこの場を離れるぞ!」

 隊長各位に伝えて火の手が上がる帝国軍野営地から急いで逃げる。犠牲は出たが、それでも被害の割には少なく済んだ。だが、この敗北はデュオンにとって屈辱以外の何物でもなかった。自分の犯した失態で、戦局にまで被害を出してしまったのだ。なんと報告すればいいのだろう。大事なエルフ達との戦いで撤退を余儀なくされた。燃え盛る野営地を後に、デュオンはただ後悔するしかなかった。

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