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76話

 兵士たちは陽気に食事をしていた。しかし、物事には限度がある。なのに、彼らはまるで既に勝利した後の宴の様に笑い、中には踊りだしている兵もいる。

「何だこの騒ぎは! お前たち何をしている!」

 デュオンが怒声を飛ばしても兵士たちの意気揚々とした歓声に飲まれ届かなかった。ふらふらと近くを歩いていた兵士の胸ぐらをつかんでデュオンは問いただした。

「お前たち、一体どういうつもりだ。このバカ騒ぎはいったいなんだ!」

「これは団長殿……いや、食事を取っていたらちっこい奴が、明日に備えて水分補給を勧めて来たんでさぁ……みんなで飲んだらちょいと気分が良くなってきたもんでして、それが御覧のありさまです」

 兵士の口から漂ってくる臭いにデュオンは敏感に気が付いた。兵士を放り出すと、急いで食料保管庫に行って水の入った樽を調べる。

「何だこれは? 水じゃなくて酒が入ってるではないか! 誰がこんな物を!」

 樽の中に入っていた水はそのまま葡萄酒に置き換わっていた。それを兵士たちは知らずに……いや、気づいておきながら酒の誘惑に耐えられず飲んでしまったのだろう。それで皆すっかり酔っぱらってこのような騒ぎになっているのだ。

デュオンが確認した時は確かにただの水だった。それをどこから同じ量の葡萄酒にすり替わったのか。こんな不可解な事が過去にも起きたことがある。そう、帝都で魔女を処刑しようとしたとき、デュオンはそれを思い出した。

「貴様ら、帝国では酒は違法だ! 全員処罰を受けたいか!」

 帝都中が酩酊したあの状況に、今はよく似ている。これは決して偶然ではないはずだとデュオンは思った。

「全員集まれ! 来なければ全員罰を与える! 隊長格以上の者は速やかに兵を調べ上げろ!」

 その時、野営地に突然一本の矢が放たれた。それは誰にも当たらず地面に深々と突き刺さったが、まるでそれを合図に次々と外から矢が飛んで来た。

「敵襲! 敵襲!」

 姿は見えないが森の方から矢は飛んできている。エルフたちの攻撃が始まった。ようやく兵士たちも事の重大さに気づいたようだが、帝国軍の野営地は蜂の巣をつついたように騒然となり、もはや統率の取れない混乱した状況になっていた。

 兵たちの酩酊、エルフたちの突然の夜襲……それは決して偶然ではない。誰かが、何者かがこれを引き起こしたのだ。

「あの魔女の仕業だ……それしか考えられん!」

 デュオンが憎々しく呟く。処刑直前まで追い込んだ酒の魔女が、エルフと一緒になって帝国軍を陥れた。こんな事が出来るのは奴しかいないとデュオンは確信した。

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