75話
ついに日が沈み帝国軍の野営地に松明の明かりが灯された。指揮官たちのテントの中にデュオンや騎士たちが集まって会議を行っていた。
「エルフ共の様子はどうだ?」
「今の所、攻撃の予兆はありません。森に入らなければ奴らはこちらに手を出す事はそうないでしょう」
外からは兵士たちの声が聞こえてくる。そろそろ兵士たちの食事の時間だ。今が一番気の緩む時でもある。だからこそ、隊長より位の高い者がすぐ動けるように、食事の時間を分けてある。
「兵の数自体は我が帝国より劣るが、奴らの森を利用した奇襲や伏兵はかなり脅威だ。だからこれまで帝国は攻め射る事がなかなかできなかった」
エルフの兵は自分たちの有利な領域から出て戦うような事は殆どない。デュオンはそれをすぐに察知したため、ならば領域を狭めていく戦法を取る事にした。重装歩兵を前に出し、じわじわと木々を切り倒しながら前進する。焦って攻撃を仕掛けてきたら数に物を言わせてこちらも矢を放つ。最初はそれでエルフたちに自分たちの手を印象付けさせた。
そして、次に少数精鋭でエルフの地形情報を集めた。周囲の土地の情報からエルフたちの集まっている場所を予測、そして一気に前線を広げるために森を焼き払う事に決めた。
「森の中を流れる川の辺りまで前線を進めれば、攻撃がより容易になる。地の利があろうと、いずれやつらの物資も尽きる。長期戦に持ち込めば、こちらが有利になる」
そのために、気づかれないよう火計用の物資の輸送を要請し、商人ギルドに運ばせてきたのだ。エルフたちが気づく前に迅速に行う必要がある。指揮の系統も今夜中に決める。そのための集まりだ。
外から兵士たちの笑い声が響いてくる。
「騒々しいな、いくら明日の早くから攻撃と言って、興奮しすぎではないか?」
デュオンが不審に思う。いくら食事の時間と言っても明らかに兵士たちが騒がしい。
「これではエルフ共にも聞こえてしまうではないか。静めてきます」
指揮官の一人が外に出て騒ぐ兵たちを叱責しに行く。だが、その男が青ざめた顔ですぐに戻ってきた。
「大変です! 兵士たちの様子がおかしいのです。デュオン殿も来てください!」
呼ばれてデュオンも外へ出る事にした。攻撃直前での突然舞い込んできた兵たちの不可解な様子、直感的に背筋を悪寒が走った。嫌な予感がする。それは偶然ではなく、何者かの手によって必然的に起こされた物だと感じた。外の様子を見てデュオンはその光景に驚愕した。




