73話
アルマは身振り手振りで何とか意思表示しようとする。とにかくデュオンにこの場を離れて貰いたかった。
「そうだったな、お前は話せないんだったな。先ほどは事情も知らず、人前で目立たせてしまって悪かった。申し訳ない」
そう言ってデュオンが頭を下げた。指揮官が一兵士に頭を下げるという行為に、アルマは驚いた。
「さっきもあの兵士たちが勝手に食糧庫を漁ろうとしたのを止めてくれていたのだろう。規律を守る者がいてくれて私は嬉しく思う」
アルマにとっては、デュオンは自分を酒の密造で処刑しようとした冷酷な人間というイメージがあった。しかし、こうして対面してみるとどうだろう。彼に対するイメージがm違っていたと思った。
「私も戦場で功績を得た身。お前の様な身を挺して帝国に尽くしてくれる者は、私も応援したくなる。しかし、お前にもあの友人の様に大切な者がいるのだろう? 功を焦ってその大切な者たちを悲しませるようなことはするな」
彼はあくまで帝国の法と規律に忠実なだけで、決して情のない人間ではないとアルマは気づいた。
「では、私は行く。他の兵たちの様子も見なくてはな。兵を預かる身として、責任を果たさねばならんからな。頑張れよ」
デュオンは足早に去っていった。彼の知らなかった一面を見てアルマも内心動揺が隠せなかった。
「あいつが来てたんだ。中を調べられなくてよかったよ」
後ろから聞こえた声にぎくりと驚いて振り返ると、保管庫の幌からミトソが顔を覗かせていた。
「これで準備完了。成功すれば、今日の夜にエルフたちの攻撃が始まる。帝国が森を焼くより先にね」
「一体、何をしたの?」
「だから内緒。まあ成功してからのお楽しみってね」
結局ミトソは食料にどんな細工をしたのか教えてくれなかった。ミトソの作戦が成功すればエルフたちが帝国を攻撃する。そうすれば恐らく多くの被害が出るのだろう。それは戦争だから当たり前のことだ。分かっている、いや分かっていたはずなのにデュオンとのやり取りや自分が帝国で過ごしてきたことを考えるにつれて、戦争で人が傷つくことにアルマは心を痛めるようになってしまった。さっきの二人の兵士も、もしかしたら帰りを待つ家族がいるかもしれない。
だが、エルフたちが攻撃をしなければ逆に帝国が明日の朝にはエルフたちを襲撃する。森は焼かれ、その時はエルフたちが大きな痛手を負う事になる。エルフたちも同じように家族や友人がいるはずだ。どちらにしても誰かが傷つき悲しむことになる。相反する選択にアルマはどうするべきか苦悩する。




