71話
まだやり過ごせたわけではなかった。今度はミトソの顔を見たいという。デュオンは僅かな瞬間だけとはいえ、彼の顔も見ているはずだ。もし見せたらバレる可能性はある。
「分かりました。そこまでおっしゃるなら……」
ミトソは躊躇う事もなく兜の面を上げて顔を晒した。その顔を見てデュオンが言う。
「随分と、豊かな髭だな。まるでドワーフのようだ……」
ミトソはその中性的な美少年の様な顔を半分覆う位の立派な髭でおおわれていた。いつの間に用意したのか付け髭だろうか? しかし、流石にこれならデュオンも見たことある顔だとは思うまい。
「済まない。私の疑い過ぎだった。余計な手間をかけさせたな」
そう言って、デュオンは去っていき、兵士たちも解散となった。かなり危ない状況だったが何とか言い逃れる事が出来た。これもミトソのお陰だ。
「ふう、少し危なかったね。僕たちも行こうか。とりあえず食料の保管場所でも探そうかな」
「助けてくれてありがとうね」
「少しくらいは信者に恩恵を与えなきゃ、神様としてね?」
そんな風にミトソはおちゃらけているが、アルマにとって今のは絶体絶命の状況だった。感謝してもしきれないくらいに。本当に危ない時は、助けの手を差し伸べてくれるミトソを、彼女はとても感謝していた。だから、彼の突飛な行動にも可能な限り付いて行っている。
先ほどの出来事で二人は少し目立ちすぎたため、急いでその場を離れた。前線の野営地だけあって兵士の数は元より、敷地もかなり広い。二人が隠れる物陰は十分あった。
「明日には攻撃が始まるなら僕たちもゆっくりしてられない。元々そんな時間はかけるつもりじゃなかったけれど、急ぐ必要があるね」
「オリザたちに早く伝えなきゃ……」
と言っても、今エルフたちの所へ戻っただけでは彼らは二人を認める事は無いだろう。もっと信用に足る証拠や情報が必要だ。
「それに、こっちはこっちでちょっと計画があるから、その為にも早めに食料の保管場所を知りたいんだよね」
「一体何をするつもり?」
「内緒」
肝心な事をミトソは教えてくれなかった。しかし、彼には何か手段があるようだ。何故そこまで食料の保管場所にこだわるのだろう。まさか毒でも仕込むつもりなのだろうか? それくらいすれば流石にエルフたちも認めてくれるかもしれないが……。
アルマの中には矛盾した思いがあった。エルフたちの役には立ちたい。そもそもそのために帝国軍に潜入したのだ。しかし、自分のせいで人が傷ついたりするのは見たくない。元々帝国デ育った身だ。その生まれ故郷である帝国を裏切る行為には今でも迷いがあった。その二つの思いでアルマの心は揺れていた。




