70話
「では、我らも休息をとる。各兵士は準備を怠るな!」
騎士たちの野営地は別にあるようで、並んだ兵隊の列の中をデュオンが通ってゆく。その途中で彼はピタリと足を止める。
「そこの兵士、何故兜の面を下ろしている。顔を見せられぬ理由でもあるのか?」
デュオンと周りの兵士たちの視線がアルマに集中する。デュオンは彼女の顔を知っている。見せてしまえばすぐに自分が魔女だとばれてしまうだろう。そうでなくても、女性が紛れ込んでいると分かっただけで大問題だ。すぐに理由を問われ、エルフとの関係がバレる事だろう。
「お前に言っているのだ。何故返事をしない!」
迂闊に声も出せない。刻一刻と疑惑の念は大きくなっていく。どうしたらいいのだろうか。
「団長殿、どうか、どうかお許しを!」
一人の兵士が声を張りながら私に駆け寄ってきた。同じく面を下ろしているが、その低い身長と声でミトソであることがアルマにはすぐ分かった。
「何者だ?」
「私はこの者の友人でございます。彼と私は元々は南の蛮人との戦で戦っていた兵士でございます。その時の戦いで、彼は顔に大きな傷を負い、また声も出せなくなってしまったのです!」
ミトソが説明する。アルマが兜の面を上げられず、声も出せない嘘の理由をでっち上げてくれた。
「本当ならば、療養の身。それでも帝国の役に少しでも立ちたくて、こうしてはせ参じた次第です」
「ほう、それは健気なものだ。しかし、こう顔を隠していてはその顔がエルフだとしても分からないのではないか?」
「ならば、この腕を見て下さい!」
そう言って、ミトソはアルマの腕を取る。その時、彼女だけに聴こえる小さな声で「僕に任せて」と呟いた。腕の手甲を外してアルマの素手をかざす。
「この腕をご覧ください! エルフの死人の様な青白い物とは別でしょう。これでも信じられないと言うのでしょうか!」
「なるほどな。しかし、まるで女性の様に細い腕だ」
「先ほども言ったように、本来ならば療養してなければならない程彼はやつれているのです。それなのに、これ以上彼を辱めるつもりですか!」
声を荒げてミトソは言う。その演技は実に見事で、疑うデュオンがまるで悪いかの様に感じられる。
「分かった、それ以上はいい。私の思い過ごしだった」
なんとか嫌疑は晴れたようだ。息も詰まる程緊張したが、これでやり過ごせるとアルマは思った。
「ではその友人とやら、証拠という訳ではないがせめてお前だけでも顔を見せてくれないだろうか?」




