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7話

「麦酒って……領主から許可は取ってるの?」

「領主? 許可? ないよそんなの」

「それってつまり……私にお酒を密造しろってこと!?」

 この地で生きていてまさか酒の密造が重罪だと知らないはずがない。それを知っててこの少年はちょっとした手間を頼むくらいの気軽さで、私に酒の密造を指せようとしている。

「僕には人間の考えた事なんて知ったこっちゃないからね。嫌なら別にいいよ。でも、すぐに出てって貰うから」

 う、そうなったら私は今度こそ一夜を過ごす場所さえなくなってしまう。それに、改めて周りを見てみるとここには酒を造る道具や設備が最低限揃っているようだ。造る事自体は素人のわたしにもできるかもしれない。問題はそれが犯罪だという事を除けば……。

「手伝ってくれれば、お姉さんにも麦酒は分けてあげるよ」

「やるわ」

 その言葉で私は即決した。この世界に来て未だちゃんとした酒を飲んでいない。酒を飲まずして何が人生だろうか。たとえそれが重罪だとしても、私は酒を飲みたい! 前世の記憶が私を酒の密造へと突き動かした。

「へえ、あんなに嫌そうにしてたのに、酒が飲めると分かったら決めるの早いんだね」

 にやっと笑って少年は桶をわたしに手渡す。

「じゃ、まずは水を汲んできて。実は古い井戸がここの裏に残っているんだよ。多分まだ水が出るから、この鍋一杯に注いで貰おうかな」

「ラジャー!」

 こうして、私は少年に言われるまま酒の密造に手を出した……そう、これが処刑の原因……の最初の一歩。前世の記憶、修道院の追放、密造の始まり。そして、これから思い出す記憶が処刑までに起きた出来事に繋がっていく。少年の言った通り、廃墟のすぐ裏には建物と同じくらい古い井戸が残っていた。綱で桶を繋ぎ、暗い井戸の中へ投げ入れるとぽちゃんと水の跳ねる音が聞こえた。手繰り寄せて引き上げると冷たい井戸水が桶に並々と入っていた。

 それを持って地下に戻り、少年が新たに用意した深底の鉄鍋に汲み入れる。これを数回繰り返して鍋の半分ほどまで水を注ぐ。

「お疲れ様。じゃあ後はこれを入れてと……」

 少年は水の入った鍋に麦を入れていく。入れ終えて蓋をすると少年は言った。

「これで少し待てば麦汁が出来るからそれまで休憩しようか。その間、時間つぶしにお姉さんがここに来た理由でも話してよ」

 麦酒、いわゆるビールの造り方をこの少年は熟知しているようだ。水と麦が混ざり、麦に含まれる酵素が分解されて麦汁になる。まだ科学技術が普及していないこの世界で、科学的にビールが出来る過程を知っている。この少年はただ者ではないと確信し、私は彼を信じる事にした。

「いいわ。実は私、この近くの修道院で生まれ育ったのだけれど……」

 鍋の中で着々とビールの原材料となる麦汁が出来ていく間、自分の身の上話を少年に聞かせる事にした。

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