66話
二人は最初に来たエルフの野営地まで連れて来られた。すると、オリザがエルフの言葉で兵の一人に指示を出し、その兵士はどこかへ向かって行った。
「今はまだ硬直状態だが、少し前から帝国は新たに軍を送ってきた。それまでただの烏合の衆だったが、新しく来た連中は戦慣れしてる者がいるようで、しぶとく我々の領域に陣を敷いている」
数に劣るエルフたちは森の中で敵を迎え撃って帝国の軍を退けていたが、それでも今はじりじりと前線を押し上げられている状態らしい。
「へえ、森の中じゃあエルフたちに敵う兵はいないと聞いたのに、新しく来た帝国の兵たちは相当手練れみたいだね」
「帝国の兵などただ数が多いだけだ。だが、指揮官が変わって苦戦しているのも事実。そこでだ」
先ほど命令を受けていたエルフが再びやってきた。その腕には帝国の鎧や兜の装備が抱えられていた。
「お前たちには帝国の陣地に潜入してもらう。同じ人間族なら容易に潜入できるだろう」
「潜入して、何をすればいいの?」
「指揮官の暗殺」
たった二人で帝国の軍の陣地に潜入して暗殺だなんて、そんな恐ろしい事はアルマには出来る気がしなかった。到底戦争とは無縁の生活をしていたのに、いきなり命のやり取りをさせられるのは流石に酷過ぎると思った。
「一番理想はそれだな。だが、お前らは戦争に関しては素人だろう。敵の士気や野営地の内部の様子を教えるだけでいい」
オリザがそう続ける。彼も二人がそこまで出来るとは思ってないようで安心した。
「潜入がバレて我々の密偵だと知られても、助けるつもりはないからな。その時は覚悟してもらう」
二人の事は完全に使い捨ての駒としか見ていないようだ。しかし、それでも彼らには大した痛手ではない。だから都合のいい駒として扱えるのだろう。
「それで成功したら、王女は僕らと取引してくれるかな」
「お前らが役に立ったと王女が判断したらな」
「だったら、もう少し功績を手に入れないとかな。例えば、前線を押し戻せるくらいの功績を出せば、認めざるを得ないだろう?」
ミトソが驚くことを言う。たった二人で帝国の前線を押し戻す手段があるとは到底思えない。それこそ指揮官の暗殺でもしない限り不可能だ。
「珍しくやる気だな。そんなに自信があるのか?」
「ちょっと持たせて欲しい物があるんだ。エルフにとっては大したものじゃないはずだ。それを用意してもらいたい」
ミトソには何か考えがあるらしい。オリザに詳細を耳打ちすると、オリザの方は少し考えたが、意外にもあっさりミトソの言葉に乗った。
「いいだろう。潜入させるとき一緒にそれを貴様に持たせておこう。だが、上手くいかなくても我々は貴様らを助けるつもりはない。それだけはおぼえて置け」
エルフたちの為に、ついには帝国を裏切る様な事までさせられている。アルマは心中穏やかではなかった。




