65話
「ふん、王女が貴様らを利用するとはな。だが、決して信用したわけではない事をよく覚えて置け。怪しい動きを少しでも見せたら、俺がすぐにその首を掻っ切ってやる」
王女の命令でそのままエルフの最前線の陣地に連れていかれる事になった。よもや戦争にまで巻き込まれるなんて、アルマには思いもしなかった。馬車は没収され、徒歩で元来た道を戻ることになった。
「それにしても酒なんかの為に命まで賭けるとは、つくづく神も人間も理解できないな」
オリザは二人をあざ笑う様に話す。途中、大きな樹の前で立ち止まると、口笛を吹き始めた。すると、樹の上から部下のエルフがするすると下りてくる。死人の様に青ざめた肌を持つエルフ達だが、彼らの顔は僅かだが紅潮している。
「お前たち、ソソマを飲んでいたな? いくら交代が近いからと言って油断のし過ぎだ!」
部下のエルフたちが申し訳なさそうにエルフ語で謝罪する。どうやらソソマという酒を飲んでいたらしい。
「早く戻って交代しろ。だが、どれくらい飲んだか知らんが、飲み干して次の奴に恨まれても俺は知らんからな」
そそくさとエルフたちは本陣の方へ戻って行った。その後ろ姿をオリザは見送りながら言う。
「ああいう半端者ほどソソマを飲みたがるが、酔いのあまり木から落ちて怪我をするのが関の山だ。俺はそんな酒に興味はないが、酔ってもそんなドジは踏まん。弓もここから飛んでいる鳥にだって射る事すらできる」
得意げにオリザは話す。
「ソソマか、果物を木の洞に入れて、雨水が溜まって出来る自然発酵させたエルフの酒だろ? あんなの僕からしたら水とそう変わらないよ」
ミトソがそう返す。どうやらソソマとはアルマの前世で言う猿酒のような物らしい。森の中で生活する内にいつしか発見された物なのだろう。こういう酒の扱いに帝国とは文化の違いを感じる。
「僕たちが持ってきたのはソソマとは比べ物にならないそりゃあ強い酒だ。きっと、飲んだら木に登るどころか歩く事すらままならなくなるよ」
「ふん、だからなんだ? わざわざ歩けなくなるほど強い酒を造って飲むのがそんなにいいのか? つくづく考えが理解できんな」
そう言い捨てると再びオリザは歩き出した。アルマたちもそれに続く。
「確かに、酔う事は褒められたものではない。人によっては羽目を外し過ぎる事もあります……」
アルマがぽつりと呟いた。呑兵衛の人間から、先ほどのオリザの言葉に対する返答らしい。
「でも、それでもこうして飲みたくなるからには、酒にはそれだけの意味があると私は思うんです。普段よりも大らかになったり、楽しかったり、そういう意味が……」
「人間の小娘が俺に意見か? ミトソの信仰者とか言っていたが、お前も相当変わり者だな」
「敬虔な子だろう? 酒の神自慢の信者だよ」
そんなつもりはないのだが、やはり理解は得られない。しかし、ミトソは何故か嬉しそうだった。




