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64話

「自分が酒を飲むことしか頭にないお前が私に酒を? ふん」

 そして王女はちらりとアルマを見た。彼女の鋭い目と目が合ってぎくりと背筋に寒気が走る。

「そこの人間の女は何者だ?」

「僕の信仰者だよ」

 自分はただ振り回されているだけと言いたかったが、何か言った瞬間、矢か剣が飛んできそうで黙っているしかできなかった。

「ふん、どうやって誑かしたか知らんが、こんな神に縋るしかないとは余程切羽詰まっているか、愚か者かのどちらかだな」

 内心、自分は騙されて連れまわされてるだけだと助けを求めたかった。しかし、かといってここで独りになってもどうする事も出来ないのが現実だ。

「生憎だが、私には酒を飲んでいる余裕などない。見て分かる通り帝国の人間と戦っているのでな」

「そう、じゃ僕らは自力で何とかするよ」

 そのまま出ていこうとするミトソを、エルフの兵士が道を塞ぐ。

「帝国から来た者たちを勝手にうろちょろさせると思うか?」

 絶体絶命の状況だ。

「拷問すれば何か帝国の情報を吐くかもしれません」

「捕虜にして奴らと交渉してみては? 人質として帝国の連中を撤退させるのです」

 エルフたちが相談しながらアルマとミトソを取り囲む。戦に二人を利用するつもりのようだ。

「ちょっと待った!」

 ミトソが声を上げる。議論していたエルフたちの声がピタリと止んだ。

「王女は戦で酒を飲む余裕すらないと言うみたいだね。それじゃあ、もし僕らが力を貸したら、取引に応じてくれるかな」

「誰が貴様なんかと取引するか。第一、我々が手を焼いているのに、お前たち二人が何かした所で戦況が変わると思うのか?」

 しかし、ミトソは引かなかった。

「少なくとも、僕らを人質にするよりかはマシな事が出来るよ。例えば相手の陣地に潜入して情報を得たりとか」

 ミトソはエルフたちのスパイとなって帝国の軍を相手にするつもりのようだ。しかし、アモラ王女は信用していなかった。

「ただの呑兵衛と小娘二人に何ができるというの? 第一お前らがそうまでする理由もない。そう言ってすぐ逃げだすつもりだろう!」

「王女も知ってるだろう。僕は酒を飲むためなら何だってする。美味しい酒を飲むためにはエルフの力が不可欠なんだよ」

 酒の神にとって、美味しい酒を飲むのは命を賭ける理由にすらなる。普通ならとても信じられないが、ミトソならそれもあり得る。酒のためなら帝国で禁止されてる密造すら平気でやるのだ。それはアルマも良く知っている。

「いいだろう、お前たちがどうなった所で我々にはなんの損害もない。もし、我々の利益になると証明出来たら、もっと話を聞いてやらなくもない」

 何とかこの場は乗り越えたがその結果、エルフたちの密偵となり帝国の軍に潜入する羽目になった。決して良くなったとは言い難かった。

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