63話
そうして、やがて大きな野営地に二人は連れてこられた。
「王女は本国にいるんじゃないの?」
「王女は前線の指揮を執っておられる。今は戦争中だという事をもう忘れたか?」
なんと女性の身でありながら軍の統率をしているという。帝国では考えられない事だ。
「王女は元々帝国の領土に一番近い森を統治していたからな。本来なら敵である帝国の人間と取引をする事に決めたのもあのお方の案だ。強欲な人間は平気で仲間を裏切ると知っておられた」
商人ギルドの人たちの事だろう。しかし、それほど戦に対する観察眼を備えてる女傑でもあるわけだ。
二人はそこの大きな天幕に案内される。中に入ると数人のエルフが、一人の女性エルフを中心に話し合っており、入った瞬間、ピリピリとした敵意を感じた。
「アモラ王女、帝国から二人の使者が来ました」
オリザが膝をついてそう告げる。夫婦と言えど、指揮官と将兵とは明確に身分差があるようだ。私情は許されないのだろう。
「お久しぶりアモラ、王女……随分と偉くなったね」
「知らない顔だな。きっと、おぼえておく価値のない者だな」
やはり王女の言葉は刺々しかった。他のエルフと違い、緑色の長い髪をポニーテールでまとめ、胸当てこそしているが、細やかで色とりどりの宝石かガラス細工の装飾品を纏っている。エルフはどこか人形の様に整い過ぎていて不気味に感じていたが、王女はそれがかえって人間とは違うゾッとするような美しさとなって現れている。
「酷いなあ昔馴染みが会いに来たってのに歓迎もないなんて……」
オリザが振り返りナイフのような小刀をミトソの首に差し向ける。声を出す間もなく、一瞬凄惨な光景を思い浮かべたアルマは血の気が引いて気絶しそうになる。
「剣を下ろせオリザ、殺した所で手間になるだけだ」
王女に言われてオリザはサッと武器を仕舞った。肝心のミトソは全く動じてなかった。
「それで何の目的があってきた。お前も知っている様に今は戦で忙しい。まさかタダ酒を飲みに来ただけと言ったら次は本当に首が飛ぶぞ」
「ふーん話が早いや。手短に言うと僕らはある装置が欲しくて頼みに来た。その見返りとして、王女に相応しい嗜好品を献上しに来たわけ」
「嗜好品?」
「僕から王女へ高級なお酒をね」
返事はない。この緊迫した場所から一刻も早くアルマは逃げ出したかった。せっかく帝国の追手から逃れて穏やかに過ごせると思ったら、エルフの国でこんな危ない橋を渡る事になるとは思いもしなかった。




