62話
「でもこれだけは言わせてもらうよ。彼女との間には何もなかった。僕はあくまでエルフの国の食客のような扱いでいたんだ」
「じゃあどうして結婚相手に選ばれたの?」
「それがエルフの国の文化や信仰がまたややこしくて……エルフの国は帝国と違って様々な神を信仰している」
エルフの国は多神教で、様々な神々の恩恵を受けている。兵士や国の規模が帝国に劣っているにもかかわらず、何年も戦えているのはそういう影響も大きいようだ。
「エルフは単純に多数の神を奉ってるだけじゃなくて、神と夫婦になる事でそのつながりを強固にしてるんだよ」
「神と夫婦……」
「エルフは自分たちは半神、神々の直系の一族であるって考えがあるみたいでね。その王女も祖先には神の血が混じってると伝えられててるくらいに」
前世の世界でも似たような話は古今東西存在していた。そういう神々の血を引く人間はやはり英雄だったり偉大な伝説を残している者ばかりだ。
「で、王女は自分もその威光に預かりたくて、その標的を僕に選んだ」
それがミトソの言い分という事だ。王女は自分の権威付けの為に元神であるミトソを夫にしようとした。そんな事されたら流石にたまったもんじゃないだろう。
「でも、もし結婚してたらまた神として崇められていたんじゃないの?」
「それだけの為に好きでもない相手と一緒になって、何年もエルフの国に縛り付けられるのはごめんだね。アルマだってそう思うでしょ?」
そう言われると分からなくもない。納得しかけた時、オリザが口をはさんだ。
「それ以上、我が王女の事を悪く言うなら、この場で貴様らを処刑するぞ」
どうやら聞こえていたようだ。声に怒りが混じっているから本気であることが伺えた。
「落ち目の神が、王女の結婚相手に選ばれた事自体を光栄だと思え」
「ええ、ええそうですね。第一夫のオリザさん」
「第一夫?」
「エルフは女性の権力が強くてね。王女は何人も夫を持つことができるんだよ。オリザはその一人」
またとんでもない情報を聞かされた。オリザは王女の配偶者でもあった。それなら自分の妻の事を悪く言われていい気分ではないはずだ。
「王女の夫として選ばれるのにどれだけの才能と努力がいるか、神であるお前には分からんのだ。にもかかわらずお前は婚姻の儀の前日に姿を消した」
「お前たちが勝手に仕組んだことだろ。危うく知らない間にこっちは所帯を持たされるところだったんだから!」
こうして聞くと、ミトソの方が酷いみたいだが勝手に結婚させられそうになったなら同情の余地があるだろう。そんな事情があったのだから、エルフと険悪になっても仕方のない事だった。




