60話
「それで、そんな酒飲みの愚か者が、我々に何の用だ?」
「アモラお姫様は元気かなって……出来れば再会の宴でもして欲しい所なんだけど」
オリザは無言でいきなり、矢を素手でミトソに向かって投げつけた。彼の僅かに離れた左側、御者席の背もたれに矢が突き刺さった。エルフは弓がなくても素手で矢を使う事が出来るらしい。ドワーフのガブとは違って仲は良くない、むしろ険悪のようだ。
「今は王女だ。よくもそんな軽々しく御名を呼んでくれるな」
「落ち着いてよく聞いてよ、半分は冗談だけどこっちもタダで会うつもりはないんだ。アルマ、あれを出して」
恐る恐る荷台から蒸留酒の入った樽を持って、オリザたちの前に置く。部下らしきエルフの一人がその中身を見てオリザに伝えてるようだ。エルフたちの言語は帝国の物と別なため、何を言っているかはわからなかった。
「ただの酒か? 悪いがそんな物、我々の国には多数ある。お前ら帝国と違って、我々の国では果実から酒を醸造するなんて造作もない。お前らには道を知られている。ただで返すわけには……」
「よく調べて見なって、ただの葡萄酒じゃない。こっちじゃ王様のお酒と言うくらい高貴な酒さ。アモラ姫……王女にはふさわしい酒じゃないか?」
オリザが部下にもう一度調べるように指示する。慌てて部下のエルフは匂いを嗅いだり、指に浸して舐めてみる。そうしてエルフの言葉でオリザに伝える。
「ふむ、ただの葡萄酒でない事は確からしいな。ならば、王女に献上しよう。怪しい動きを見せれば、その場で全身穴だらけにしてやるからな」
「どうぞご自由に。じゃあ行こうかアルマ」
帝国の商人たちに見せたのは実は、アルマニャックではなかった。途中、彼らに見せるため醸造した麦の蒸留酒、ウィスキーだった。本命のアルマニャックはエルフたちに渡すため残しておいたのだ。
「でもあの蒸留酒も帝国の商人に渡すには惜しい物だった。麦の力強さがそのまま出ているような喉の焼けるあの味! きっとギルドでも注目されているだろうね」
この酒に対する執着は、酒好きのアルマでさえも呆れるくらいだ。すっかり蒸留酒が気に入っているようだ。
「所で、さっき出て来たエルフの名前、アモラってどんな人なの?」
「うーん、エルフたちに聞かれたらまた怒られるかもよ。偉くなって軽々しく名前も言っちゃ駄目みたいだ」
それは分かっているが、これから会いに行く相手のことくらい知っておきたかった。何よりエルフについてはアルマは全く知らない。さっきのオリザというエルフがどうしてあれほど怒ったのか、その理由もミトソから聞きたかった。




