58話
日が昇る直前、アルマたちは馬車で商人ギルドの支部に向かうと、既に商隊が準備をしていた。その隣に立っていた責任者らしき男に、昼間受け取った羊皮紙を見せると、最初は疑っていたがすぐに顎で商隊に混じるように指示する。
やがて日が昇り、その日の始まりを告げる鐘がなると同時に街の門が開き、商隊が出発する。商隊には護衛の騎士や兵士が追従していたため、アルマは生きた心地がしなかった。
「ねえ、この商隊は何処へ向かうの?」
「帝国の軍の野営地でしょ。ここの人たちはそこへ物資を輸送するんでしょ」
「軍の野営地!?」
一瞬大声を出してしまったので、慌ててローブをさらに引っ張って顔を隠す。
「しーっ、僕らは流石にそこまで行かないよ。途中まで同行して、エルフの国に入れるルートで別れる。羊皮紙に書かれている事を読むと、そういう手はずになってるよ」
元からその手順を記されていたという事は、商人たちには既に当たり前になっているのだろう。敵方であるエルフとも裏で取引をしている。それも商人ギルドが直接的に。本当であれば到底許されない裏切り行為だが、今はその力を借りなければいけないなんて、アルマは複雑な気持ちでいた。
そして、暫く無言で輸送隊と共に進んで行く。自分たちは一番後ろで、護衛の騎士たちは前に集まって距離が離れている。まだ昼間には早い時間帯であるが、前方の馬車の調子が悪いから、様子を見るために早めの休憩を取る事になった。その時に、最初に会った責任者らしき男が再び姿を見せた。
「護衛たちは馬車の様子を見ている。今の内に来た道を戻れ。途中林に入る脇道があるからそっちを通れ」
どうやら、馬車の不調は芝居でこの間にエルフと取引をする別隊が、エルフの国に向かうのだろう。ミトソは手を振って手短に挨拶を済ますと、何事もなかったかのようにもと来た道を戻った。
輸送隊が見えなくなった頃、林になっている道の脇に獣道のようだが、馬車が通ったような轍が茂みから覗いていた。恐らくこれがエルフの国へ通じる道なのだろう。そこへ馬車を突っ込ませると、巧妙に隠されているが馬車が通るには十分な広さの道となっていた。
「後は、エルフたちに取引に来た商人だと分かるように、馬車にランプを付けてと……」
まだ明るい内から照明を馬車に吊るす。これが取引をするという合図なのだろう。ランプを揺らしながら、どんどん林の奥へ進んで行く。
「本当に無事に着けるのかしら?」
「信じるしかないさ。お姉さんは幌の中にいた方がいいよ。いきなり矢を射られるかもしれないからね」
物騒な事を言っているが、そんな事故が起きてもおかしくないのは事実だ。荷台の中で揺られながらエルフの国に入るのを待った。




