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57話

 帝国の西方、エルフの国の領域に最も近い街に二人は着いた。帝都から離れた辺境の地であるが、エルフの国とも近いので砦のように物々しい外壁で囲われ、街そのものが要塞のようだった。

「ねえ、ここからどうやってエルフの国に行けるの? 騎士や兵隊っぽい人も街中を普通に歩いているから、長居するのは危ないと思うんだけど……」

 ミトソはともかくアルマは魔女として追われてる身だ。処刑されかけた時、自分の顔をおぼえてる人間がいるかもしれない。そうなったら今度こそ火あぶりの刑にされる。ローブを深くかぶって人目を避けるように荷台の方で身を隠す。

「そうだね、という事は帝国の軍も近くにあるはずだし、この街からきっと食料や物資を送ってるはずなんだよ」

 そう言いながらミトソは堂々と荷馬車を進ませる。そしてある建物の前で馬を止めた。

「見つけた。ここだ」

 そこは商人ギルドの支部だ。商人ギルドは帝国中の物資の輸送を担っている組織だ。アルマはドワーフの国に行く途中で出会ったロンという行商人を思い出す。

「商人ギルドに頼むの? でも、ドワーフと違ってエルフとは敵対してるんでしょ?」

 帝国はドワーフの国と同盟を結んでいた。表向きは対等な立場だが、実際はドワーフたちから鉱石資源の搾取を行っており、決して良好な関係ではなかった。

「確かにエルフと帝国は敵対している。信仰の違いか政治的な理由かは分からないけど、それはあくまで戦っている騎士や兵士、貴族や政治家たちの問題だ」

 馬車を下りると、荷台から小さな樽を取り出す。中には旅の途中で造った蒸留酒が詰まっている。

「でも、商人たちは神ではなく目の前の財産を信仰している。つまり、金や宝石、珍しい品物。そのためならきっと敵とも取引をするだろうさ」

 そう言って、蒸留酒の樽を抱えて商人ギルドの建物に入っていく。アルマもその後に続いた。

 商人ギルド支部は何人かの商人と運び人が忙しそうに歩き回っている。商人の指示を受けて腕力に自身のありそうな運び人たちが荷物を馬車に積んでいる。

「何の用だ坊主ども。ここは帝国軍へ輸送する荷物しか受け付けてないよ。ただの行商人なら自分たちで何とかしな」

 受付の商人が帳簿と荷物を見比べながら不愛想に話す。一般人は相手にしていないようだ。その言葉を無視して、ミトソは受付の前に蒸留酒の入った樽を置く。

「ちょっと特別な要件があってね。帝国軍とは別のお得意先と取引をしに行きたいんだ」

 商人がギロリとミトソを睨みつける。そして樽に目を向けると、それが禁制品であると即座に見抜いたようだった。

「おい坊主、誰の差し金だ? まさかオゼ―……いや、深入りするのは止めておこう」

「これはお駄賃がわり。エルフの国に一番近い道まで一緒に連れてって貰える?」

 少しの間、商人は何か考え込んでいたが、別の羊皮紙を取り出してミトソに差し出した。

「明日の朝、日の出の鐘と共に軍へ物資を輸送する。商隊の奴にそれを見せてついていきな」

「ありがとう、それは早く仕舞った方がいいよ。それじゃあ」

 交渉はそれで終わりのようだった。このわずかな取引の間にどれほどの罪を犯しているのか、アルマは想像するしかなった。

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