56話
「じゃあ次は蒸留だね。これは僕も試したことない手法だから、ここからは手さぐりだ」
簡易的な蒸留用のガラス瓶と、熱するための固定台を用意する。これはアブールが予備の備品をアルマたちに渡してくれたものだ。
「学問には実践が不可欠だ! あらゆる事象を同じ手法で繰り返すことで法則が見つかる! 様々な酒を蒸留していけば、新たな法則と発見が見つかるはずだ!」
そんな事を言っていたが、これから彼の手によって科学技術が発展するかもしれない。帝国法で厳しい時代だが、後世にきっとそれは報われるはずだろう。
そして、アルマたちも出来たばかりの葡萄酒を蒸留して、アルコールを精製していく。
「うーんこれだけの量じゃあ、樽一杯に集める事は無理そうかなあ」
蒸留、精製、収集を繰り返しながらミトソが呟く。蒸留用のガラス瓶自体がそんなに大きい物ではないため、精製で出来るアルコールの量も僅かだ。それを樽の様な容器に集めていくのだから気の遠くなるような作業になる。
大量の水、大きな設備、そして保存する容量の大きい容器。それらがあって、蒸留酒は初めて大量生産できるのだ。
「やっぱりエルフの国に行く必要がある。彼らの力が蒸留酒を造るには不可欠だ」
アルマが繰り返し作業で疲弊していると、彼は一人頷いて言う。
「そんなに言うほど、エルフの国には何があるの?」
「エルフたちはガラスの製造に優れているんだよ。彼らが綺麗で美しいガラス細工を作っているのを、昔見たことがあるからね。一度に大量に蒸留できる大きなガラス瓶は、きっと彼らくらいしか作れないさ」
何気にガラスは帝国では貴重な物だ。作れない訳ではないが、専属の職人が代々貴族によって保護されているほど、一般人には無縁の代物だ。帝国がエルフの国を攻めるのも、そうした独自技術が欲しいのだろう。
「ドワーフは鍛冶や採掘、エルフは芸術品や薬学の神を崇めていた。だからその恩恵に関係する様々な技術を教えて貰ってるんだと思うよ」
「帝国の神は軍神として昔から有名だったわ」
「だから帝国はその恩恵を受けて戦争してるんじゃない? 神から得た力で他の神の知識を奪うってね。戦争と言ったら略奪は切っても切れない関係だし」
戦と秩序。帝国が今の形になっているのは崇める神の影響だという。果たして本当なのだろうか。アルマにはとても信じる事は出来なかった。
「それじゃあまるで帝国は神に操られているみたいじゃない!」
「あくまで僕の想像だよ。もしかしたら単純に今の皇帝が、好きで戦争をしているかもしれない」
それはそれで嫌な理由だ。そう思うのはアルマが戦争とは程遠い世界で生きていたからかもしれない。姿を見せない皇帝陛下は一体どんな思いで戦争を見ているのだろうか。




